迎撃に成功したGRヤリスと2022年の浮上に賭けるWRX
このようにR5仕様車は全日本ラリー選手権においても噂に違わぬスピードをみせつけていたが、それ以上に筆者を驚かせたのが、RJ車両のトヨタGRヤリスだった。とくにトヨタGAZOOレーシングの勝田が猛威を発揮していた。ラリー・カムイで初優勝を獲得するとラリー北海道を制してグラベル2連勝を達成。
さらに圧巻だったのは終盤のターマック2連戦で、勝田+GRヤリスは前半戦で圧倒的なパフォーマンスを見せていた福永+ファビアR5を抑えて第10戦のラリーハイランドマスターズ、第4戦の久万高原ラリーを制し、4連勝を達成したことは記憶に新しい。
その結果、勝田が自身9度目、そして、GRヤリスがデビューイヤーで初めてのタイトルを獲得した。
このトヨタGAZOOレーシングの躍進は、勝田が非力なライトウェイト車両のドライビングに対応したことが原動力となっていた。
同時にニューマシンにはマイナートラブルがつきものだが、デビュー戦となった新城ラリーを除けば、GRヤリスは安定した走りを披露していただけに、イベントごとにマシンを煮詰め、勝てるパッケージに仕上げたエンジニアおよびメカニック、そしてタイヤをはじめとするサプライヤーの技術力もデビューイヤーでの躍進を導いたポイントといえる。
一方、同じRJ車両でもスバルWRXはシーズンを通して苦戦の展開を強いられた。
第2戦の新城ラリーは福永+ファビアR5は経験不足が否めず、また、トヨタGAZOOレーシングのGRヤリスにもトラブルが出たことから、ドライのレグ1は鎌田が制し、ウェットのレグ2を攻略した新井敏弘が緒戦を制したが、第3戦のツール・ド・九州および第5戦のラリー丹後でスバル勢は表彰台を獲得することはなかった。
第6戦のモントレーでようやく鎌田が3位に入賞するも、第7戦のラリー・カムイで新井敏弘が2位、鎌田が3位、第9戦のラリー北海道で新井大輝が2位、鎌田が3位と、グラベル戦ではなんとかスバル勢が表彰台を分け合ったほか、第10戦のラリーハイランドマスターズ、第4戦の久万高原ラリーで鎌田が3位につけるものの、スバル勢が再び勝利を飾ることはなかった。鎌田曰く「3位ならスバル勢にとって優勝と同じ価値」という状態となっていた。
スバルWRXを武器に2021年のJN1クラスでタイトルを獲得した新井大輝は、「去年より攻めているけれど、ファビアRとGRヤリスに追いつけない。ドライバーもチームもやれることはすべてやっているので、これ以上、速くすることは厳しい」と心境を吐露しているが、VAB型WRXが旧型モデルとなり、進化が期待できないだけに、今後も厳しい戦いが強いられることだろう。
このようにJN1クラスに集結する3つのモデルに性能格差があることが明らかとなったことから、2022年の全日本ラリー選手権では”性能調整”の導入が検討されている。詳細は明らかになっていないが、関係者の話によると、ファビアRもしくはGRヤリスを基準に置く見込みで、スバルWRXに関しては救済策として”リストリクター系の拡大”もしくは”最低重量の引き下げ”、あるいはその両方が実施されるようだ。
ちなみに11月12日〜14日に愛知県および岐阜県で開催されるセントラルラリーは、その性能調整を図る一戦になる見込みで、アライモータースポーツの新井大輝が軽量化を実施したスバルWRXで参戦するだけに、その走りに注目が集まる。
この性能調整がうまくいけば、2021年のシリーズで劣勢となっていたスバルWRXのパフォーマンスアップが期待されており、新井親子と鎌田が再びトップ争いに加わってくる可能性が高い。ジェントルマンドライバーを対象にした他のクラスと違って、全日本ラリー選手権のJN1クラスは完全にプロドライバー&プロチームを対象にした独自のクラスに進化しており、2022年も激しいタイトル争いが展開されるに違いない。