「質感」は人によってその評価が異なる曖昧で便利な言葉だ
また、シートやステアリングでいえば、レザーの材質を上げたり、ステッチを施したりすることで高級感やスポーティ感を高めているときに質感を向上させたという表現を使うこともある。
さらに、ドアを閉めたときの感触についても、バフッと閉まるようになっていると質感が高いといった評価をする。塗装についても何重にも塗料を重ねることで深みを表現したときに質感という言葉で表すこともある。
言うならば、数値化・定量化することが難しい「人の感覚」で判断される主観的な領域の商品性について「質感」という言葉を使っているという風にまとめられる。ある意味で、便利な言葉として使われているともいえる。
そのため、自動車評論家の中には「質感」という言葉を嫌っている人もいる。曖昧な表現であって、コンセンサスの得られる評価とはいえないという考えからだ。
冒頭で記したようにクルマのキャラクターというのは千差万別。レーシーなクルマにおける質感というのは「硬質感」かもしれないし、ラグジュアリーモデルであれば「上質感」となる。
一方で、最近の軽自動車やコンパクトカーの評価で使われる質感は、高級感を増している内外装を評価する表現であることが多い。内装でいえばプラスチッキーさが解消されていること、エクステリアでは塗装の品質などを高く評価したときに「質感が高まった」といった表現が使われる。
いずれにしても、それぞれのクルマに求められる要素が異なる中で、多くの人に共通認識として伝わる評価をしようと思ったら「質感」という表現は適切でないというのは理解できるのではないだろうか。
もちろん、個人の趣味として「このクルマの質感は素晴らしい」と感じることを否定するわけではない。日々いっしょに過ごす愛車であれば、自分の感性にあった質感を持つモデルを選ぶことが幸せなカーライフにつながることは間違いないからだ。