この記事をまとめると
■意気込んで開発した装備もその代限りで消えてしまうほど馴染めない場合も
■他社の失敗からヒントを得て、自社製品に応用するケースもある
■新装備を一旦は採用しつつも、しばらく経つと以前の物へ回帰という現象もよくある
世界初の装備だったのに火はつかなかった
自動車の魅力はスタイリングにあり、という人も少なくないだろうが、工業製品である限り、基本的にはテクノロジーによって進化するものであり、テクノロジーこそが利便性を生み出しているといえる。
そうしたテクノロジーの進化には、ある意味で失敗を恐れないトライ&エラーの精神が必要だ。結果的に失敗と感じる機能があったとしても、それは将来の花を咲かせる種になるかもしれないからだ。
そんな典型例と思えるのが、トヨタが2005~2010年のあたりで展開していた腕時計型スマートキー、その名も「キーインテグレーテッドウォッチ」だ。
ゼロクラウンのマイナーチェンジに合わせて初登場した腕時計型スマートキーは、太陽光発電の時計とスマートキーを一体化したもので、腕時計としてみると少々厚ぼったい筐体ではあったが、それを身につけているだけでドアを解錠でき、エンジンをかけられるというのは非常に未来的な印象だった。
ゼロクラウンのアクセサリーとして用意されたインパクトが強いため、クラウン専用アイテムと思っているかもしれないが、じつはエスティマ、マークX、ヴェルファイア、カローラなどにもアクセサリーとして設定されていた。意外にもトヨタは本気で腕時計型スマートキーを広げようとしていたのだ。
とはいえ、それが主流になることはなかった。
じつは筆者は2005年当時、ゼロクラウンのオーナーだったためキーインテグレーテッドウォッチを使っていたが、自然と愛用できるようになったのには普段から腕時計をしていない生活をしていたことにある。
もし腕時計にこだわっているようだったら、けっしてスマートとはいえないキーインテグレーテッドウォッチを日常的に腕にはめようという気にはならなかっただろう。個人的には、クルマに乗る日だけ腕時計をするという運用だったので気にならなかったが……。
おそらく、そうしたユーザーが一定数いたことで、キーインテグレーテッドウォッチは廃れていった。しかし、クルマのカギをウェアラブルに装着しようというチャレンジは無駄になったわけではない。
たとえば、ジャガー・ランドローバーがアクセサリーとして用意している「アクティビティキー」は手首につけるリストバンド型のスマートキーで、ウェアラブルという意味でいえばトヨタのチャレンジをしっかりと受け継いでいるといえる。
また、最近ではスマートフォンに専用アプリを入れてカギとして活用できるクルマも増えてきているが、iPhoneにそうしたAppをインストールした場合は、Apple Watchと連携させることで、Apple Watchをまるでスマートキーのように利用することができる。
トヨタのチャレンジは無駄ではなかった。スマートウォッチが全盛となった現在、そのアイディアは実装することがより容易になり、拡大の予感を漂わせている。