名乗らない「隠れミッドシップ」は多かった! 前エンジンの「フロントミッドシップ」の絶大な効果と課題 (2/2ページ)

速さを引き出す上ではエンジン搭載位置は問題ではない

 また、フロントにエンジンを横置きし、前輪を駆動するFF車にもフロントミッドシップに分類できる場合がある。

 初代ホンダNSXやトヨタMR2などはリヤアクスル寄りの通常レイアウトだったが、エンジンはFF車のパワートレインをほぼそのまま後方に移動させたようなものだった。FF車は、フロントアクスルの前にエンジンを搭載しているようなオーバーハングレイアウトで、前後重量配分が極端に悪くなるが、それをリヤアクスル側に移せばミッドシップ化が可能となり、重量配分が良くなる。ただ、ホイールベース内の位置からみると、ほとんどリヤアクスルの直上であることから、実際の運転特性はリヤエンジン搭載車に近いものだった。

 逆に通常のFFモデルのエンジンの前後向きを逆転させ、フロントアクスルの後方にエンジンの重心がくるように搭載し、横置きエンジン前輪駆動フロントミッドシップとした例もある。量産モデルでは少ないが、JTCCなどのツーリングカーレース仕様で試みられ、FRより速かったシーンが各所で見られたのだ。

 マツダの2ローターロータリーエンジンはもともとエンジン長が短く、フロントに搭載してもホイールベース内に収まり、フロントミッドシップとなって優れた運動性能が示せていたと言える。

 また、積極的にエンジンのフロントミッドシップを意識して設計され、高性能化を実現したモデルもある。現行のR35型日産GT-RやメルセデスAMG GTがそうだ。

 両車の手法は似通っている。GT-RはV型6気筒エンジンを、AMG GTはV型8気筒エンジンをフロントアクスルより後方に縦置き配置する。そこに通常の形式でトランスミッションを繋ぐとキャビンを圧縮し、運転席を後方に配置しなければならなくなるため、エンジンとトランスミッションを切り離し、トランスミッションはリヤアクスルに設置するトランスアクスル方式としているのだ。

 エンジンと同様にトランスアクスルも重たい機構であり、ホイールベース内に搭載することが理想的で、リヤアクスル直前に置くことで後輪荷重も稼ぐ理想的なレイアウトといえる。結果、GT-Rは後席も確保でき、大人4人が乗れるフロントミッドシップスーパースポーツとして、世界中の支持を得られることとなったのだ。

 レーシングカーの世界でもフロントミッドシップが速さを示したこともあった。1999〜2003年にル・マン24時間レースを筆頭に、アメリカン・ルマンシリーズで活躍して速さを示していた「パノス」だ。日本のチーム郷も2000年にこのフロントミッドシップ・パノスLMP-1を擁してル・マン24時間レースに参戦している。

 こうしたレースシーンでの活躍からフロントミッドシップは速さを引き出す上では通常のミドシップと遜色ないことが示されてきたが、衝突安全性を確保するためにフロントオーバーハングが長くなり、また排気管の取りまわしやコクピットへの排気熱の影響が大きくなるなど課題も多かった。トランスアクスル化することで高速のまま回転するプロペラシャフトが車体を貫通し、その振動抑制や剛性確保でカーボン製プロペラシャフトを採用するなど、コスト的な負担と重量増加も無視できないものだった。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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