新燃料への適合化に取り組むメーカーにこそ投資する価値がある
このおかしな流れの一番の被害者になっているのが、我々ガソリンエンジンによる自動車をこよなく愛する者たちであると言っても過言ではないだろう。
自動車メーカーは売れるクルマをラインアップしなければ成り立たず、各国が電動化を法規的に押し付ければ適合させていくしかない。
現在の流れのままで押し流されれば、ガソリン自動車に未来はない。ガソリンエンジン搭載車を残していても、国策でガソリン燃料に多大な税金がかけられ、ガソリンスタンドの規制が強化されて街中からスタンドが姿を消して給油できなくなれば、もうガソリン自動車を動かすことは出来なくなってしまう。
そこで一縷の望みを託せるのが水素エンジン車だ。最近はトヨタ自動車がカローラ・スポーツをベースに水素エンジン搭載のレースカーを仕立て、耐久レース中心に実験参加し話題となっている。
水素エンジンは水素燃料電池車(FCV)と大きく異なる。水素燃料電池は水素と酸素を結合する燃料電池スタックで発電し、その電力で電動モーターを駆動する。パワートレインはEVと同じだ。しかし、水素エンジンはガソリンエンジンほぼそのままで、燃料をガソリンから水素に置き換え、エンジンのシリンダー内で水素を燃焼させた爆発エネルギーを動力とする。ドライブフィールはガソリンエンジン車と変わらず、多くの部品もそのまま活用できる。
ボクが卒業した武蔵工業大学(現東京都市大学)は、水素エンジンの開発に1970年代から取り組んでいた。担当教授で後に学長となった故・古濱庄一氏は、水素エンジンの世界ではその名を知らぬ人はいないと言われていた。
BMWは20年以上前の2000年代にV型12気筒エンジンを改良し、水素でもガソリンでも走る「バイフューエル燃料車」を開発して実走試験を重ねていた。水素はエネルギー密度が低く長距離を走れないので、市街地は水素エンジンとして走り、長距離はスイッチひとつでガソリン車に切り替えるという手法を取っていた。
水素エンジン稼働時に排出されるのは水蒸気のみ。大気に含まれる窒素の影響で窒素酸化物(NOx)がわずかに排出されるのが唯一の有害物質と言われたが、現代の触媒式排出ガス浄化技術があれば大きな問題ではないはず。
水素の他にもミドリムシから抽出した油を燃料とするバイオ燃料など、内燃機関を活かせる新燃料技術もすでにある。
内燃機関に未来はないと言い切る前に、現在のガソリンエンジン車を新燃料に適合化する取り組みをする企業、メーカーにこそ投資する価値があると思えるのだ。