ドミンゴは11年販売されたロングセラー車
アラジンを紹介した流れで、ドミンゴそのものについてもあらためて思い出してみよう。ドミンゴは、不朽の名車サンバーから派生した奇跡の7人乗り3列シート車で、初代モデルは90年代のRVブーム到来のはるか以前である1983年にデビュー。以来、2世代15年にわたってスバルユーザーのRV需要に応え続ける。
時代のはるか先を読んでの小型7人乗りミニバンの投入という狙いのほか、アジアなどへの輸出向けのハイパワー版のサンバーとして開発された経緯を持つ。歴代スバル製ユニット初にして唯一の3気筒であるEF型エンジン(排気量)を搭載し、サンバーが持つ潜在能力をさらに引き出した、いわばエボリューションモデル的な位置付けにあったのだ。サンバーから受け継いだRRレイアウトによるトラクションの高さと、4輪独立懸架サスがもたらす路面追従性の良さにより、旧規格の軽自動車ベースの小さなクルマらしからぬ優れた積載能力とユーティリティ性を多方面で発揮。
初代モデルは国内市場でもミニバン的というより、やはり軽バンの高出力バージョンとしておもに業務用で重宝され、11年も販売されたロングセラー車となった。2代目モデルでは特徴的なY字型のフレーム構造を採用し、ヨーロッパにも輸出できるレベルの前面衝突安全性を確保。2009年に筆者が初めてドイツを訪れた際、現地で初めて遭遇したスバル車はドミンゴだったことには驚いたが、ドミンゴは意外にも国際的にその実力が認められている。国によっては「SUMO」というネーミングで親しまれた。当時の欧州には7人乗りの小型ミニバン、しかも四駆の小型車は存在しなかったので、スイスなど山岳地帯で重宝されたという。ポーランドのポズナン国際見本市ではベストカー賞を受賞するなど、公式にも高く評価された実績を残しているのだ。
1980年代の軽ワンボックスを3列シートの7人乗り車に仕立てるという発想は、昭和のおおらかな時代だったからこそ生まれたトンでも企画と思えるかも知れない。しかし、ドミンゴはベースとなったサンバーが類い稀な対荷重性能の高さを備えていたからこそ実現したクルマだった。
4輪独立懸架サスをもつRRのフルキャブレイアウト車には、積載重量が増えても四輪接地荷重が均一に保ちやすいという大きなメリットがあり、このサンバーならではの素性が軽ワンボックスを7人乗りにしても欧州で高く評価される走りを実現したのだ。
素性は良いとはいえ、80年代の計ワンボックスを大人7人分の荷重が載っても破綻しない操縦性に仕立てるのは、決して簡単な仕事ではなかった。当時の富士重工業車両実験部の高橋保夫さん(のちにS203などのSTI限定車を担当)や小荷田守さん(初代WRXの操縦性開発を担当)らが、故・小関典幸氏(スバルモータースポーツ活動黎明期の功労者)の指揮下でドイツのアウトバーンや福島のエビスサーキットで走り込み、苦労に苦労を重ねて煮詰めた結果得られた走りだったことを忘れないでおきたい。
小型の7人乗り車の先駆けとして誕生し、天井で寝られる機能あり、キャンパーありの傑作仕様も生み出したドミンゴだが、ミニバンが一過性のブームではなく人気ジャンル市場として確立された1990年代の後半になって、皮肉にもその役目を終えたのだった。