現在の中国の動きと根本は同じ!?
一時の勢いはなくなってきているとはいうものの、まだまだ成長市場である、世界一の自動車マーケットとなる中国では、販売ディーラーの多チャンネル化は未確認だが、個々のメーカーでブランドの多角化は熱心に行われている。
いまはコロナ禍で行くことができないが、筆者はコロナ禍前には毎年2回、春には北京か上海、秋には広州へモーターショーの取材に出かけていた(北京と上海は交互に隔年開催)。成長著しい中国の自動車産業は年1回だけウォッチしていたのでは“浦島太郎状態”といっていいほど、ガラッと様子が変わってしまうことが多い。最低でも年2回、複数のモーターショーを見てまわらないと情報整理が追いつかないのである。
その追いつかない情報のひとつが“新ブランド”である。まったく新しいEVベンチャーのようなものもあるが、すでに完成車メーカーとして実績を積んできているメーカーが新たなブランド展開を始めることも多い。ファストファッションで例えると、ユニクロのようなメインブランドのほかに、GU(ジーユー)のようなお手軽ブランドを新たに始めたり、その逆でメインブランドより上級志向のブランドを立ち上げたりしているのだ。
大手が零細完成車メーカーを買収して自分のブランドにしたりもしているので、エクステリアデザインはもとより、パワートレインなどにまったく共通性がなく、新ブランドとなっていることもあるので、見かけない新しいブランドがどのように誕生したかを調べるだけでも相当手間取るのである。
このような中国の動きと、かつて日本で専売車種を設けた販売ディーラーの多チャンネル化が当たり前だったころは、根っこの部分では置かれた状況は同じといっていいだろう。新車販売市場が成長途上となっており、消費者の間でとにかくクルマというものがあらゆる面でトレンドとなり、生活の中で話題になることも多いほど注目されているのである。そのためいまの中国やかつての”バブル”のころの日本のような時期、つまり新車販売にまだまだ”のびしろ”がある時は、ニューモデルを出せば出すだけ売れるのである。
世の中の新車に対する注目度は高く、「稼ぎが良くなったらクルマを持ちたい」という願望を強く感じる、いまの中国の様子は、筆者がかつてリアルワールドで見ていた日本のバブルのころの新車販売現場の様子を彷彿させる。専売車種を含め、クラスやキャラクターが似ている車種を集め、その扱い車種に合わせた店舗イメージなどに特化して多チャンネル展開するのは、そのクルマを気に入っているひととしては、より購買意欲を刺激され、新車販売市場が成長途上にあるころには、販売促進に対してはむしろより効果的だともいっていいだろう。
ただし、専売車種や多チャンネル化は、新車販売市場が落ち込んで行けば、当然規模の縮小が行われていく。日産自動車は1999年にルノーと資本提携を結ぶと、さっそく国内の販売体制の再編を始めた。まずは、日産店とモーター店をブルーステージ、プリンス店、サティオ(サニーがなくなったのでサニー店が改名)、チェリー店をレッドステージとして、まずは、ブルーステージ内、レッドステージ内での全車取り扱いを行いながら、販売会社や販売車種の統廃合などの再編を進めた。そして、その後ブルー/レッドステージの2系列を2007年に廃止し、いまに至っている。
苦境を脱するためにルノーとの提携を進め、国内販売体制の再編によりスリム化が進むなか、2002年にスズキからのOEM(相手先ブランド製造)となる軽自動車“モコ”がデビューした。当時はまだセドリックなどFR大型セダンもよく売れていたのだが、軽自動車のほうが売りやすく、よく売れたので、次第に販売現場が軽自動車、そしてコンパクトカー、ミニバンなどを積極的に売るようになり、店舗もキッズコーナーを充実させたり、子どもが喜ぶ店内装飾を施すなど、ファミリームードに溢れるものとなってきた。
すると、代々セドリックなどの上級セダンに乗ってきた”お得意様”のなかには、「このような雰囲気のなかでは購買意欲がわかない」として、日産から去る(別ブランドへ流れる)といった動きも顕在化した。全店併売化はそのメーカーの新車がすべて買えるという利便性はあるのだが、結果的に売りやすいクルマだけばかりが売れるようになり、消費者としては選択肢の減少を加速させるリスクも孕んでいるのである。
トヨタ系ディーラーで見れば、トヨタ店はクラウンやセンチュリーを専売していたので、店作りもかなり特徴的で、各店舗には個室となる商談スペースが用意されている。かつてトヨペット店ではマークIIが看板車種だったので、トヨタ店に近い雰囲気を持っている。
これがカローラ店やネッツ店となると、いきなりファミリー的、カジュアル的な店舗作りとなっている。扱い車種の”クラス”をチャンネルごとに分けることは、そのチャンネルに行かなければならないという不便なところもあるが、それぞれの売りやすい環境を店舗内に維持することもできるので、結果的にメーカーとしてはまんべんなく新車を売ることができるというメリットがあるのだ。
トヨタがいまも、自販連(日本自動車販売協会連合会)統計の車名(通称名)別販売ランキングを見ると、他メーカーより偏りなくまんべんなく新車を売っているのは、長い間専売車種を残し、多チャンネル体制を維持してきたからといってもいいだろう。
かつてカローラが“ベストセラーカー”と呼ばれていたころ、1500cc車が販売のメインとなっていたのだが、1800ccが販売のメインとされた兄貴格のコロナ(トヨペット店)、カリーナ(トヨタ店)にも1500ccモデルがラインアップされていた。
そして、「俺はクラウンもあるトヨタ店扱いのカリーナがクラウンの流れも汲んでいるのでいい」や、「カローラよりも歴史があるし(当時)、マークIIは正式には“コロナ マークII”だ(当時)」などと、「カローラは売れすぎていてどうも」というひとたちが、それぞれのこだわりで、同じ1500cc車であっても、あえてカローラをチョイスしないひとも多く、よく売れていた。
しかし、世の中のクルマ離れ(積極的な興味がなくなった)が進み、少子高齢化が進み、今後も新車販売市場の縮小が避けられないなかでは、専売車種やその専売車種を持つ多チャンネルディーラーの存在は、消費者から見れば「面倒くさい」となり、販売促進をむしろ阻害する存在になってしまったといっても過言ではない。
以前、まだ全店併売化を実施していないころ、トヨタディーラーを訪れるお客のなかには、「ここはどんなクルマを扱っていますか?」などと聞かれることも珍しくなかったとのこと(それだけ世の中のクルマへの興味は薄れていった)。
全店併売化前にはそんなトヨタディーラーでも、C-HRなど新しいモデルやハイブリッド車は全店扱いとなることが多かったので、国内販売では圧倒的なシェアを持つトヨタでも、専売車や多チャンネルの限界はすでに感じていたのかもしれない。専売車種や多チャンネル化は、メーカー全体で見た時の車種ラインアップ数の削減も進めにくいことにもなるし、消費者のクルマに対する“熱量(関心の薄れ)”ダウンや、消費者ニーズ(店舗ごとの雰囲気の作り分けよりもすべてひとつの店で買えるという利便性)の変化に対応するため、いわゆる”モノディーラー化(同じブランドの店ならば、どこでもなんでも売っている)”が進んできたといっていいだろう。