数値が小さくても「運動性能」に優れるわけじゃなかった! クルマ好きが大事にする「パワーウェイトレシオ」の落とし穴 (2/2ページ)

パワーウェイトレシオに優れるから動力性能も優れるとは限らない

 だがパワーウェイトレシオは計算値であり計測値ではない。0-100km/hや0-400m発進加速タイムなどは実際に計測して示されるのだが、パワーウェイトレシオは計算式に過ぎないのだ。パワーウェイトレシオ値が半分の値なら、加速タイムも半分になるというわけではない。

 2012年に0-100km/h発進加速で2.8秒を計測し、世界最短タイムを誇った日産GT-Rは、当時の仕様で最高出力が550馬力、車両重量は1700kgほどだったから、パワーウェイトレシオは3.1kg/馬力。前述ランボルギーニ・アヴェンタドールの2.1kg/馬力より劣る数値だが、アヴェンタドールの0-100km/h発進加速タイムの公表値は2.9秒で、実際に計測される動力性能としてはGT-Rが上まわっているのである。

 このようにパワーウェイトレシオは性能を表す指標にはなっても、実際の走りが優れているとはいえないのである。

 たとえば雪道など路面ミューの低い場所を走れば、パワーウェイトレシオ値の如何より、雪道に適したタイヤを装着しているかどうか、のほうが大きく走行性能に影響する。いくら軽くて馬力の大きなエンジンを搭載しても、それを路面にうまく伝えられるグリップの優れたタイヤや、駆動力をうまく引き出せる電子制御がなければ、駆動輪はただむなしく空転するだけで軽さもパワーも意味を持たなくなってしまう。

 コーナリング性能など運動性能に関していえば、車体の軽さはアジリティを高め有効に作用する。だがハイパワーエンジンはランボルギーニのV12気筒エンジンのように重く、その搭載位置によっては車体の重量バランスを崩し運動性能に悪影響を与える。軽量コンパクトなパワーユニットから大きな出力を絞りだすにはターボ過給器の装着が効率よく、F1マシンも含め現代のスポーツカーの多くがターボチャージャーを装着している。

 またブレーキ性能面では重さは致命的となり、いくらパワーウェイトレシオが優れていても、絶対重量が大きければ減速時にブレーキに過大な負荷がかかることを忘れてはいけない。

 一方、トルクウェイトレシオという値もあり、これは車両重量をパワーユニットの最大トルクで割った値となり、低速域から最大トルクを幅広い回転幅で発揮できるEVモーター搭載車などは好数値になる。ただ、その動力を引き出すエネルギーの供給源となるバッテリーは重量が重く、こうした数値を低下させる要因にもなっている。

 テスラは電気モーターの特性を利してトルクウェイトレシオの優れたモデルSで0-100km/h発進加速タイム2.1秒という日産GT-Rを凌駕する発進加速性を計測することに成功し公表しているが、軽くて高効率なバッテリーが開発されないかぎり、総合的な運動性能面では軽量かつハイパワーなガソリン車を上まわることはできていない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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マツダCX-5 AWD
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海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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