RRは決して高性能を求めるためのものではない
ではRRはどうだろう。三菱の「アイ」だけでなく、古くはスバルの「360」や「サンバー」などもRRだった。
RRは実は高性能を得るためのものではない。ポルシェ911はRRだが、速さを追求して決定されたものではなかった。RRの起源を辿っていくと独のVW「ビートル」に行きあたる。第二次世界大戦前に当時の独首相であったアドルフ・ヒトラーの国民車構想を立ち上げ、フェルディナンド・ポルシェ設計のビートルが生み出された。ビートルがRRを採用した理由は、極寒となるドイツの冬でも駆動輪にしっかり荷重をかけてトラクションを引き出し、坂道で立ち往生しないことが主目的だったのだ。
ポルシェ911は、その全身となったポルシェ「356」をフェルディナンド・ポルシェの息子であるフェリー・ポルシェが開発。ビートルの部品を多く共有しコストダウンを狙ったからRRレイアウトも継承され、それ以後現代の911に至るまでRRが引継がれているのである。
RRが特徴的な911にとって、それで速さを絞り出すことは容易ではなく、苦労の連続であったはず。しかし、RRと言えばポルシェ911=速いと誰もが連想するほどに世界に浸透させたのだ。
スバル360がRRを採用したのは、ビートルと同じ考え方が根底にあり、スバルの軽=RRという時代が長く続いた。
しかし、三菱iがRRを採用したのは少し理由が異なる。おりしも衝突安全性が声だかに叫ばれる時代となり、小さな軽自動車でいかに衝突安全性を確保するのかが検討された。
当時の基準では、まず前面衝突における耐衝撃性が強く求められた。また、エンジンが室内へ押し込まれ乗員への加害性を回避する必要もあった。そのため、フロントエンジン車ではエンジンのブロック強度を下げ、衝突時にエンジンを破壊させることで室内空間への影響を低めるなど苦労していたのだ。
iはエンジンをリヤに搭載することで車体前部のクラッシャブルストラクチュアを有効に作用させ、室内空間を前方に押し広げて広くすることさえ可能となった。
このようにMR、RRという記号性だけではクルマの性能は語れない。それぞれが、さまざまな事情や要求と向き合い、検討されて生み出されてきているのである。