いまやASEANでもポルシェが作られる時代
たしかに現行カイエンはスロバキアのブラチスラバ工場で製造されている。そして、この工場はフォルクスワーゲンの所有物なのである。つまりフォルクスワーゲン製のポルシェともいえる。純粋なポルシェではないと嫌いたくなる感情は理解できなくはない。
ただし、生産工場によって「ポルシェらしい走りが失われる」ということは、現在の生産技術を考えるとあり得ない。そもそもカイエンはフォルクスワーゲン・グループ内においてプラットフォームが共有されているモデルであって、姉妹車としてフォルクスワーゲン・トゥアレグが存在している。トゥアレグとカイエンが同じ工場で生産されているのは当然の話で、それは冒頭で記したGR86/BRZの関係のようなものだ。
GR86/BRZでメーカーによるテイストの違いが明確になっていることは知られているが、このような生産体制となることを前提に設計している限り、どこの工場で作ったからといってブランドごとの味つけが失われるということは基本的には考えられない。
実際、ポルシェは中国に研究開発施設を置くことを発表しているし、マレーシアに組立工場を新設することも発表している。マレーシアに工場を作るのは、おそらく現地での税制に対応したものだろうが、グローバル市場が拡大するなかで、アセアンでもポルシェが作られる時代になっているのだ。
さらにいえば、生産工場の場所を気にする時代ではない。実際、日本でも中国製のクルマが人気を集めている。それがテスラ・モデル3だ。2021年になって最大150万円以上も値下げしたモデル3だが、その背景にはアメリカ製から中国製になったことが大きな理由となっている。
しかも中国・上海のファクトリーで生産されたモデル3の品質は、それまでのアメリカ・カリフォルニア州フリーモントで作られるそれよりもクオリティがアップしているという。
自動化が進む自動車製造においては、職人技が冴えわたるという世界ではなくなっている。逆にいえば、最新設備を導入した新しい工場のほうが品質を向上させることができるというわけだ。
こうした生産技術の進化を考えれば、生産国によって走り味が変わるという先入観を持つことは正当とはいえない時代になっているのだ。