なぜ「勝田のGRヤリス」だけがグラベルで勝てたのか? 熟成を極めたWRX勢を抑えて2連勝を飾れたワケ (2/2ページ)

トヨタGAZOOレーシングの技術力も勝因といえる

 とはいえ、同じGRヤリスを投入しながらもヌタハララリーチームの奴田原文雄は苦戦の展開。ラリーカムイではギヤボックストラブルでリタイヤしたほか、ラリー北海道でも6位に低迷している。奴田原もPWRCで活躍したほか、全日本ラリーでも数多くのタイトルを獲得したチャンピオン経験者だが、なぜ、勝田と奴田原は同じGRヤリスで明暗が別れているのだろうか?

 ここで浮かんでくるのが、トヨタGAZOOレーシングの技術力だ。そして、この技術力こそ、勝田&GRヤリスがグラベル戦で躍進した最大の理由だといえるだろう。

 勝田のGRヤリスも奴田原のGRヤリスも、ともにダンパーやブレーキシステムはサプライヤーが開発した競技用モデルが採用されているが、エンジン制御に関しては勝田のマシンは自社開発の競技用ECUで、ギヤボックスやLSDも開発中の競技用パーツを採用。これに対して奴田原のGRヤリスはECUがノーマルで、ギヤボックスは当初、競技用のドグミッションを搭載していたが、トラブルが頻発したことからラリー北海道では純正のギヤボックスに戻している。

 これこそが、ワークスチームとプライベーターチームの違いだが、これに加えてトヨタGAZOOレーシングのGRヤリスは進化のスピードが著しく、勝田は「ラリーカムイと比べて駆動系がかなり良くなっていた。パーツは同じだけど制御の仕方でまったく違う。ラリー北海道ではトラクション性能が向上していた」とインプレッション。実際、ラリーカムイで勝田のGRヤリスはFF車両のように前輪のみが砂利をかき上げ、後輪の掻き出しは弱いものだったが、ラリー北海道ではWRXと同様にリヤのトラクション性能が向上し、フロントがリフトしていたことが印象的だった。

 加えて、ラリー北海道で勝田とトップ争いを繰り広げた新井大輝も「軽さもあると思いますが、ノリさん(勝田)のGRヤリスはそれだけじゃない。エンジンもトラクション性能も他のGRヤリスより明らかにレベルが違うと思います」と語っているが、ライバルたちがそう警戒するほど、トヨタGAZOOレーシングのGRヤリスは高いパフォーマンスを持っていると言えるだろう。

 ちなみに、8月に予定されていた第8戦の横手ラリーが中止になったものの、この真夏のラリーに対応すべく、トヨタGAZOOレーシングは、カーボンルーフのGRヤリスにルーフベンチレーターを設置したこともトヨタGAZOOレーシングの技術力を物語るエピソードと言っていい。

 つまり、勝田のグラベル2連勝はドライバーのスキルと軽量なGRヤリス、そしてワークスチームの技術力がもたらした結果だが、やがて奴田原をはじめとするプライベーターのGRヤリスも熟成が進んでくるだけに、グラベルではGRヤリスを駆るトヨタ勢が主導権を握ってくるに違いない。

 気になるターマックについて現時点では、福永のファビアR5がマージンを持っていると予想されるが、伸び代のないR5仕様車に対して、RJ仕様車といえどもGRヤリスは伸び代が多く、もともとターマックキングと呼ばれていた勝田も「チームがGRヤリスを速くしてくれたおかげで、グラベル戦で連勝できました。後半のターマックはどうなるかわかりませんが、きっと速くしてくれるでしょう」とターマックでの進化に期待を寄せる。この伸び代も現時点においてGRヤリスの“真価”のひとつだと言えるだろう。


廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

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