最後にして最強のNSX! 開発責任者に「タイプS」の「中身」と「想い」を直撃した (2/2ページ)

最高峰モデル「タイプS」ならではの問題も暴露!

−−生産終了を2022年末とし、かつタイプSを350台限定にした直接的な理由はどういった所にあるんでしょうか?

水上 理由は一つではないですね。電動化シフトや北米の法規制を見据えた判断など、複合的な理由ですね。

−−とくに予防・衝突安全関連の法規が厳しくなってきていますが……。

水上 それも、対応させるとなるとかなり大がかりですからね。しかもだんだん要求が厳しくなっていきますから、レーダーだけで対応できればいいですが、カメラが必須となった時点で、どうすればいいかという問題も出てきます。
あとは北米のエミッション関係ですね。排ガスは元々少ないですが、それ以上の要求なんです。そうすると、燃料タンクまで手を入れるのか……などとなると、形は変わらず目には見えないのに、たくさんのことをしなければならない。そしてコストの問題を、企業としては考えなければなりません。

−−このクルマに最初の段階でADAS関連が設定されていなかったのが、結構痛かったのではと推察しますが……。

水上 そうですね。スーパースポーツの電動化に関しては先読みできましたが、安全関連の法規制がここまで加速するとは当時予測できなかったのだと思いますね。

−−日本でも遠からず夜間歩行者検知に対応した衝突被害軽減ブレーキが義務化されると思いますが、そうなると結構大がかりな変更をしなければなりませんよね。

水上 販売できるかできないかという問題になりますからね。結構厳しいですよね。

−−生産・販売台数に関しては、ある程度計画通りだったということでしょうか? それとも、もう少し販売したかったのでしょうか?

水上 北米ではタイプSを8月12日に発表しましたが、1日で限定300台分が埋まってしまいました。正直いいクルマを出したと私は思っていて、試乗もせずに予約していただけているので、皆さん惚れていただいていると思いますし、私は欲しいという皆さんにお届けしたいと思っていますが、生産のキャパシティなどを考慮した結果、350台ということになってしまいましたね。

−−車両本体だけではなく部品も含めて、ということですよね。

水上 そうなんですよ。専用部品を使うと、サプライヤーさん側のキャパシティの問題も出てきますね。

−−金型の問題も出てきますね。

水上 増産してほしいと言っても、「ちょっと待って、増産する金型に投資できないよ」となりますから。残念な思いをしているんですけど、1日で300台が完売と聞いてしまうと。それで予約できなかった方には申し訳ないですし。正直、どんな借金をしてでも自分でも欲しいというくらいの出来なんです。ですが私が買ったら刺されるんじゃないかと(笑)。

−−いえいえ、LPLですから。逆に持っていないと、という気がしますが(笑)。日本仕様のお値段は?

水上 2794万円ですね。

−−内容を考えると、価格の上昇幅が思いのほか少ないと感じましたが。3000万円を超えると予想していました。

水上 それくらいの価値はあると思いますが……こういったクルマを扱ったのことのない量販メーカーの下手さといいますか(苦笑)。2020年モデルが2420万円ですから、それにオプションを装着したくらいの感覚なんです。それでいて前後サイドのカーボンエアロが標準装備になりましたから。

−−北米ではライトウエイトパッケージ付きで18万ドルほどですよね?

水上 そうです。

−−そう考えると安いですよね。

水上 北米ではクルマ全体の相場値がそうなっていますからね。でも北米ももう少し上げても良かったかなと、今となっては思っています、これだけ反響が大きいと(苦笑)。でもそれだけ認めていただいたのは、すごく嬉しいことですね。ちなみに北米1号車のチャリティオークションでは1億2000万円で落札されました。

−−それもすごいですよね。今回マットカラーが初めて設定されましたが、これもかなりチャレンジングな……。

水上 そうですね。正直今まであまりニーズがなかったのですが、今回せっかく佇まいを良くしたので、こういった全体を表現するのはマットがいいかなと。これまでオレンジ、イエロー、ブルー(注:北米仕様2021年モデルのロングビーチブルー・パール。日本仕様はタイプSで初設定)と新色を設定してきたので、最後は戦闘機的な、金属の塊のようなイメージのグレーにしようと。テスト車両に塗装したところ、エッジの鋭さがすごく出たので、これしかないなと。

−−カーボンマットグレー・メタリックは世界で70台限定とのことですが、そのうち国内の割り当ては?

水上 10台ですね。結構神経を遣うんですよ、ゴミやツヤが付きやすいので。その辺りを覚悟で買っていただくことにはなってしまうんですが。あと、アメリカから輸送することに関しても、物流の面から全部徹底してやっています。

−−出荷時のラッピングもこのボディカラー専用に作られたんですよね?

水上 はい、そうです。ほかのボディカラーにも同じ物を使うようにしたんですが……一台一台大切なクルマなので。これはカバーなんですが、フカフカで傷がつきにくい生地にしたり、ジッパーの裏側まで全部変えています。

−−2代目のNSXとしてはこれが最後だと思いますが、将来またスーパーカーを作るとしたら、どんなクルマにしたいですか?

水上 あらゆる可能性があると思うんですね。NSXは元々、時代の先を行く、そういった提案をしてきたものだと思っていますので、そういったものを考えられればいいなと思いますが、残念ながら今現在は計画がありません。……というより、これからという感じですね。私の使命としては、2代目NSXを究めて、これをお客様に届ける所まではきっちりやりたいと思っています。

−−楽しみにしています。ありがとうございました!


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
好きな有名人
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