車名ロジックも技術とともにアップデートされ新しくなる
だから第二次大戦後、ポルシェが自身の名を冠した初めての自動車を出すにあたって、その開発コードは「356」にまで伸びていたのだとか。
ちなみに博士が戦後すぐ、イタリアのチシタリアのために設計した12気筒の1.5リッター、4WDのグランプリカーには、#360の開発コードが与えられていた。メーカーとして規模拡大しても博士の研究所時代のロジックは受け継がれ、開発コードは1953年には550スパイダーに、また1959年頃に911の最初期プロトとされる車両には#695や#754が割り当てられた。
だが、内部開発コードとなる通し番号もやがて限りがあること、来るべきフォルクスワーゲンとの協業を見据えて、あちらでもまだ使われていない900番台を共有コードとすることを、当時の経営陣は決断した。それが6気筒モデルは901、4気筒モデルは902という話だったが、思わぬ方向から茶々が入った。真ん中ゼロは1929年からウチの専売特許だと、フランスはプジョーからクレームが入ったのだ。
かくなるお家の事情で新しいRRスポーツカーは「911」「912」と名づけられた。それにしても、そのプジョーがいまや、ル・マン・ハイパーカーに「9X8」と名づけているのだから世の中、分からないものだ。
以降、先頭が9の3ケタ車名は、ポルシェの伝統にしてこだわりとなった。914に924に928、944、917やら962といった風に、全体としてファミリーを形成していたが、ある程度ネーミングに融通が利かされていた。空冷最後の911は1993年デビューということで993のコード名が与えられたそうだが、空冷時代の終焉というひとつの区切りに相応しいネーミングとして考えられたのではなかったか。
その一方で時折、特殊な市販モデルだけは、元の量産モデルのシリーズコードから逸脱して、内部開発コードそのままに記憶されるようになった。930ターボや959などがその例だが、カレラGTを980として記憶している人はわりと少ないのは、そういった事情によるだろう。
ボクスターやカイエンの頃から、数字3ケタに代わるペットネーム採用が一般的となったポルシェ。「718ボクスター」はまさしく端境期のロジックを感じさせる。ちなみにピュアEV第1号のタイカンは「9J1」という、初のアルファベット混合コード。
ロジックごと、エンジニアリングごとに世代がアップデートされ新しくなる、そこがポルシェなのだ。