ツーリングは英語でアヴァントとヴァリアントは仏語に由来する
ワゴンが「ツーリング」と呼ばれたのは、クルマで荷物を積み込んで長距離移動するような旅行が、まだ贅沢で庶民の憧れだった頃の名残り、つまりツーリングという外来語が新鮮だった頃の名残りといえる。
ちなみに、そう名のったイタリアのカロッツェリアが創業したのは1926年のことで、長期バカンスと自家用車が普及して、広く労働者階級が自動車旅行を楽しめるようになったのは、第二次大戦後のことだ。英国では伝統的に「エステート」の名称がワゴンには用いられ続けている。
アウディが使う「アバント」だが、じつは初採用モデルはワゴンではなく、C2世代の100でファストバック・ボディを指す名称だった。
だが次の世代で、思い切り前方へつんのめるほどの角度のリヤハッチゲートを受け継ぎつつ、ワゴンボディとして大容量ラゲッジをも実現した100アバントが大ヒット。
かくして「アウディ流のスタイリッシュなワゴン=アバント」は定番となり、80やA6、A4にも受け継がれる名称となった。ところで「avant」とは仏語で「前に」とか前方そのものを指す言葉だ。
フォルクスワーゲンが用いる「ヴァリアント」は「variant」、これまた仏語だ。意味は、原本に対する異本だとか、オリジナルに対する「もうひとつのもの、少し違う別のもの」というところ。アウディ80とプラットフォームを共有していたB1世代のパサート、そのワゴン版に用いられたのが最初だ。
パサートは当初、80のファストバック版(しかもリヤハッチゲート無し)という位置づけだったので、ヴァリアントというアバントと巧みに韻を踏む呼称がオリジナルと見立てているものは、5ドアのセダンかアウディか、その両方という見方もできる。
意外にも、VWの最量販車種であるゴルフに4代目で初めてワゴンが登場した時は、その名は「ゴルフ・ワゴン」だった。
つまり「ゴルフ・ヴァリアント」の名が与えられたのは5代目以降なのだが、その頃にはハッチバックのゴルフがブランドとしてすっかり確立しており、だからこその「ヴァリアント」採用だった。
それだけドイツのメーカーが、一度こしらえたネーミングやモデルの系譜を大切にしていることが窺えるだろう。