日本の自動車メーカーの強味はなんといっても「人の力」
さらに、日本の自動車メーカーが欧米での現地生産は始めるのは1980年代になってからで、アメ車メーカーの従業員の間では自らの職が日本車によって奪われる危険性があるとして、日本車不買運動が起こる。
こうしたアメリカでの厳しい体験をもとに、欧州、中南米、中近東と日本の自動車メーカーは積極的に活動の範囲を広げていった……。
こうした博物館での疑似体験だけではなく、筆者がリアルタイムで日本の自動車産業の現状を体感するのは70年代後半からだ。
商品開発、実験、マーケティング、モータースポーツなど、さまざまな分野でこれまで日本の自動車産業と深く関わってきた。
その上で、日本の自動車メーカーの強味はなんといっても「人の力」だと思う。
嚙み砕いて言えば、従業員の当事者意識である。
欧米では自動車産業に限らず、経営側と従業員側に大きな壁があるように感じられるが、たとえばホンダ創業者の本田宗一郎氏が作業服を来て現場の従業員と同じ目線で語り合うなど、会社に関わる全員が一丸となることで、会社が将来向かう方向について社員が目途をつけやすく、「わが社」意識が高まったことが、クルマ作りや販売店のネットワーク作りを粘り強く続けることが出来たのだと思う。
ところが、近年では環境・社会・ガバナンスを重んじるESG投資が自動車産業を経営する上での大きな指標になるなど、経営型と従業員型との”会社のこれから”に対する意識のギャップが生まれているのが実状だ。
100年に一度と言われる、自動車産業変革期の真っ只中にいる今、日本の自動車産業がサスティナブルに(持続可能なかたちで)成長していくのは、今一度、自動車産業に関わる人たちが当事者意識を持つ必要があると強く思う。