あの乾いた音が聞けるならもう一度空冷ポルシェに乗ってもいい
それから20kmくらいを耐えた頃だろうか。突然リヤの空冷水平対向6気筒エンジンが止まった。再度キーを回しても、再びエンジンが始動することはない。まずは路肩に自力でクルマを寄せ、エンジンルームを覗き込む。ポルシェの空冷エンジンは、いわゆる強制空冷式で、これはファン(扇風機のようなもの)でエンジンの冷却効率を高めようというもの。今回はそれでも冷却が間に合わず、オーバーヒートしてしまったというわけだ。
路肩に座り込みながら、これからどうするかを考える。空冷エンジンの場合、この事態から脱出する唯一の方法は「冷えるまで、ひたすら待つこと」。ところが10分経っても20分経っても、エンジンはピクリとも反応しない。次のインターチェンジまではわずか5km。動いたらここで降りて飲み物を調達せねば、翌日の全国ニュースだ。
途中で観光バスのガイドさんが、紙コップに入った飲み物をくれた。やはり人間も水冷式の方がいい。ラジエーターや、それを循環させるライン、あるいはシリンダーにウォータージャケット(水の通り道)の加工が必要になり、重く、高コストになったとしても、水冷はもはや現代の常識なのだ。最後まで粘りに粘ったポルシェでさえ、第5世代の911、すなわち996型で水冷式にパワーユニットを進化させているではないか。もちろんこれには環境対策という大きな課題もあったわけだけど。
それでも個人的には、空冷エンジンを搭載する911の魅力は、まだまだ捨てたものではないと思う。最大の理由は、強制ファンとマフラーが奏でるあの独特で澄んだサウンドだ。そしてラジエータを持たないことからシンプルでコンパクトに仕上げられたパワーユニットの設計だろうか。シンプルゆえにパーツ点数も少ないから、メンテナンス面でも有利だ。
さすがにもう一度、空冷ポルシェと一緒に熱中症になるのはイヤだけど、現代の技術で万が一もう一度、空冷エンジンが復活するようなことがあったら乗ってみたいとは思う。どこかのメーカーで復活させてくれませんかね。