個性を突き詰めたクルマたちは変化を嫌う?
伝統的なモデルになるほど、過去の成功に縛られるというか、ファンが保守的であることを望む傾向にある。しかし、それでは進化するライバルの遅れを取り、パフォーマンスの面でブランド力を失うこともある。とくにスポーツカーにおいては時に伝統を捨て去り、ドラスティックな変化が必要になることもある。
1)シボレー・コルベット
最近の例でいえば、FRの伝統を捨て、MR(ミッドシップ)に大変身したシボレー・コルベットがその好例だ。これまでコルベットといえば、フロントにV8エンジンを積んだロングノーズのFRであることが、ある種のアイデンティティだった。
しかし、ご存じのように最新のコルベットはMRになった。じつはFRとはいってもコルベットの場合はトランスアクスルといってデファレンシャルとトランスミッションが一体になった駆動系を採用していたことで知られている。
これまでもV8エンジンをフロントミッドシップ気味に積み、後輪側にトランスアクスルを置くことで前後重量配分の適正化をしていたのだが、もはやそれでは世界のライバルと戦うには不足するということでついにMRへと大変貌を遂げたわけだ。
とはいえ、エンジンは伝統的なOHVのアメリカンV8を踏襲することで伝統を完全に断ち切るのではなく、コルベットのキャラクターはしっかりと残しているのだが……。
はたしてコルベットの大変身はファンに受け入れられるのか否か。同様に伝統を捨て去り、パフォーマンスアップを狙ったスポーツカーの例をいくつか挙げてみよう。
2)ポルシェ911
独自の伝統を重視したスポーツカーといえば一番に思いつくのがポルシェ911だ。もはや911だけが守るRR(リヤエンジン・リヤ駆動)レイアウト、そしてリアオーバーハングに搭載された水平対向6気筒エンジンは911のアイデンティティとなっている。
現行型で8代目となる911は、歴代モデルを3桁のコードナンバーで識別している。その数字を並べると、901、930、964、993、996、997、991、992となる。この中で、もっともドラスティックな変化を遂げたのが、1997年に登場した996のときだ。
それまで911といえばRRに加えて、空冷エンジンを積んでいることもアイデンティティだった。油冷エンジンともよばれたそのユニットは大量のエンジンオイルを必要とすることでも知られていた。しかし、996へのフルモデルチェンジにおいて初めて水冷エンジンを積むことになる。それは信頼性の獲得という点においては非常に意味のある決断であったし、現行911においては空冷エンジンに戻してほしいという声を聞くことはなくなった。
とはいえ、996の登場時には空冷エンジンの伝統が断ち切られたことへの批判も多く、またヘッドライトが通称「涙目」と呼ばれるボクスターと共通の意匠となったことへの反発もあって、人気モデルであったとは言い難い状況だった。現在でも996は中古車相場的には、もっとも手の届きやすい911となっている。ただし、これは水冷エンジンの評価が低いのか、スタイリングの問題なのか、その判断は非常に微妙といえる。