性能や見た目がすべて……ではないと教えてくれたクルマたち
多くの人が愛するのは、速いクルマやカッコいいクルマだろう。でも世の中には、遅いのにファンが多かったり、スタイリッシュとは言えないのに愛好家がいたりする車種もある。 何を隠そう僕自身、そういうクルマをかつて所有していた。「醜いあひるの子」と呼ばれ親しまれていたシトロエン2CVだ。
2CVは第2次世界大戦直後の1948年、農村部で使われていた手押し車に代わるミニマムトランスポーターとして開発された。そのためボディの作りは簡潔無比で、当初のエンジンはわずか375ccの空冷水平対向2気筒だった。
僕が乗っていた最終型も602ccになっていたが、それでも最高出力は29馬力。エアコンはないうえにヒーターは弱かった。それでも愛用したのは、卵が割れないことを目標にしたソフトな乗り心地と、前輪駆動ならではの抜群の直進安定性のおかげだ。
作りがあまりに簡素なので、自作の道具の延長線上のような身近な感じがしたし、ミニマムである分、無限の可能性を備えている印象も受けていた。このあたりが1990年まで40年以上にわたり作られた理由のひとつだろう。
もう少し新しいクルマでデザインに賛否両論が集まったクルマとしては、アルファロメオSZが思い浮かぶ。イタリアの名門カロッツェリア、ザガートの手になるスポーツカーだったが、なにしろアクの強い形だったので、最初はどう評価していいか悩んだものだ。
でも最近取材などで再会すると、むしろ違和感は少ない。最新のクルマに近いモダンな造形がなされているからだ。ザガートはやはり先進的だったんだと思うようになった。
それにSZは走りが素晴らしい。V6エンジンはこのうえない快音を奏でてくれるし、トランスアクスル方式によるハンドリングは、FRスポーツカーとしてはいまもって最良の1台と呼べる。食わず嫌いは損をする、の典型なのだ。