イタリアの実業家が49年ぶりに復活させた伝説のブランド
1990年代初め、イタリアでかつて存在した、誰もが知る名門ブランドが復活を遂げた。それはかつてレース・シーンにおいても、また高級車の世界においても絶対的な名門ブランドともいえるブガッティ。
イタリアの実業家、ロマーノ・アルティオーリが資金を集め、そのファーストモデルとして「EB110」を披露するとともに、ブガッティの復活を広くパリで宣言したのである。ちなみにEB110とは、それが発表された1991年が、かつてのブガッティを率いたエットーレ・ブガッティの生誕110年を意味する特別な年であったことを意味している。
パリでのEB110の発表から2年後には、優美な4ドアセダンの「EB112」も披露されているから、イタリア・カンポガリアーノの街に本社をおいた新生ブガッティは、想像する以上に好調で、積極的なスタート切っていたといえるだろう。ただし開発の現場ではファーストモデルのEB110からその方向性はじつは大きく分かれていた。
社長のアルティオーリが望んだのは、まさにイタリアン・スーパーカーの象徴ともいえる、パオロ・スタンツァーニの設計と、マルッチェロ・ガンディーニによるデザインを組み合わせたモデルだった。だが新興勢力としての斬新さをより強く打ち出したい開発の現場では、かつてフェラーリでF40を生み出したニコラ・マテラッツィと、アルティオーリの親族であり建築家のジャンパオロ・ベネディーニに、各々を委ねる意見が多数を占めた。
結局ガンディーニのデザインは大きく修正され、原案といえるものはマセラティのシュバスコに採用されたが、これはまたランボルギーニのディアブロとチゼタV16Tの関係にも似る。
ブガッティの意向が強く採用されたEB110のボディは、強いシェイプを与えることによって卓越したエアロダイナミクスを得る1990年代当時の手法で完成されている。一方でそのフロントマスクには、かつてのブガッティが1956年に発表した251GPにも通じる、古典的な演出も施されており(ガンディーニとのもっとも大きな意見の違いは、このコンパクトな馬蹄形グリルを与えるかどうかにあったとも伝えられている)、まさに先進性と伝統の共存が、このスタイリングのコンセプトにはあった。