セダンの「本当のよさ」をアピールしなかった国産メーカー
しかしそれだけではない。1989年に消費税が導入されると、自動車税制における3ナンバー車の不利が撤廃された。その結果、各メーカーとも、海外向けに開発された3ナンバーセダンを国内市場にも流用するようになった。海外向けのセダンは、サイズだけでなく内外装のデザイン、運転感覚、乗り心地なども日本のユーザーに合わず、売れ行きを大幅に下げる原因となった。
セダンのアピールの仕方も悪かった。ユーザーが実用重視でクルマを選ぶようになった後も、操る楽しさ、フォーマルな雰囲気など、古い価値観を訴求し続けたからだ。セダンの実践的な価値に目を向けなかった。
セダンの実践的な価値とは、今日の衝突被害軽減ブレーキに象徴される安全性と、車間距離を自動調節できるクルーズコントロールなどがもたらす快適性だ。セダンは空間効率の優れたミニバンやSUVに比べて背が低く、重心高も抑えられる。後席と荷室の間には骨格や隔壁があるから、ボディ剛性も高めやすい。
つまり、セダンのボディは低重心で高剛性だから、今のユーザーが高い関心を寄せる安全と快適を両立させやすい。それなのに効果的な訴求を怠っている。
以上のように近年のセダンは、クルマ作りが日本のユーザーから離れ、なおかつ訴求の仕方も市場の変化に合わせなかったから売れ行きを下げた。
この失敗は欧州車と比べても良くわかる。メルセデスベンツ、BMW、アウディなどは、今でもセダンを堅調に販売している。欧州は日常的に高速走行の機会が多く、低重心で高剛性のセダンによる安全性の高さは、ユーザーが実体験として幅広く認識している。疲れると事故の危険が増えることも知られているから、安全と快適を両立できるセダンを選ぶ。
日本は欧州に比べて走行速度が低いため、セダンの価値を認識しにくい。そこをメーカーの情報発信によって補う必要があった。
このセダンにとって恵まれない状況を長い間にわたって放置したから、セダンは売れ行きが下がり、今は全般的に設計の古い車種が増えた。それによって売れ行きがさらに下がる悪循環に陥っている。
それでもクラウンやスカイラインは、1950年代から続く基幹車種だ。SUV化せずに、もう少しセダンの可能性を追求すべきだ。メルセデスベンツやBMWが複数のセダンを開発しているのだから、クラウンやスカイラインが生き残れないはずはない。