乗り替えるクルマが見つからない独創性
僕はコンセプトカーの段階からこのクルマを目にしていて、2001年にベルリンで行われた国際試乗会にも参加した。でもこの時点では、誰が何のために乗るクルマなのかさっぱりわからなかった。
ただ僕は以前、マトラが作ったムレーナという3人乗りミッドシップスポーツカーを所有しており、このメーカーの思想に共感を抱いていた。なので生産中止の一報を受け、なんとしてでも手に入れようという気持ちに変わった。
そんなアヴァンタイムを今も乗り続ける理由は、いろいろある。マトラの最後の作品であること、いつまでも飽きのこないデザインであること、トラブルが意外に? 少ないことなどなど。でもいちばん大きいのは、ミニバンクーペというパッケージが自分に合っていたことだ。
なんといっても解放感が素晴らしい。フロントウインドウのつけ根までは2m近くあるし、ヒップポイントは高くてピラーは細いから、胸から上は総ガラス張りという感じ。小田急のロマンスカーのような乗り物が好きな人間にとってはたまらない。
子供はいないがネコ2匹を連れて旅に出掛けることが多い生活にもベストパッケージだったし、その気になればソファも楽に積める収容能力もありがたかった。
車重は1.8tもあるから加速はそんなに速くない。でも速度を上げたときの伸びは心地よい。乗り心地は低速ではタイヤの固さを感じるものの、速度を上げるとシートの良さのおかげもあって、このうえなく快適。しかも直進安定性は盤石だ。操縦よりも移動することが好きな自分にとっては願ってもないキャラクターだった。
商業的に失敗したことは、多くの自動車メーカーが知っているはず。つまり代わりになるクルマは、たぶんどこからも出てこない。なのでアヴァンタイムを好きになったら、アヴァンタイムに乗り続けるしかないのである。