ATモデルも十分にスポーティな走りが楽しめる
最後にATモデルについて紹介しよう。86とBRZのAT車は従来モデルもサーキットでMT車と遜色ない速さを引き出すことができるATとして認識されていた。今回試乗したモデルではパワーアップよってATを保護するためにロックアップの領域を広め、またトルコンへの負荷を減らすような制御の工夫が施されていたように思う。
たとえば加速時にはエンジンの最高回転の手前でシフトアップし、ブレーキングするときもスポーツモードを選べば踏力に応じてシフトダウンが行われるが、最大Gを一気に引き出し強力な減速をしている時などは、ややシフトダウンが遅れがちになる。また、マニュアルのパドルシフトで操作してもエンジンの保護領域では変速することができなかった。引っ張り側では1速でも2速でもレブリミットを当てたまま自動にシフトアップせずに加速していくが、シフトダウンに関してはより慎重に制御を行っているようだ。
この結果、各コーナーの到達スピードはマニュアルトランスミッション車よりも7km/h弱及ばなかったが、ラップタイムは1.5秒も差がつかない速さで走ることができた。また、トラックモードあるいはトラクションコントロールオフを選択してドリフトに持ち込む場合もギヤ比が合えば充分可能だが、袖ヶ浦フォレストレースウェイのドリフトポイントとなるパドック裏のS字コーナーではAT車のギヤ比が合わず、ドリフト姿勢を維持しながらの旋回はし辛かった。
2速と3速ギヤ比がやや離れているのとATはファイナルギア比が3.99とハイギヤードで、ちょうどS字の速度域でパワーを上手く引き出せないという難点が感じられたのだ。ただ日常的な使用での使い勝手においては2ペダルに勝るものはなく、また状況が整えばドリフト走行も可能である事から、2ペダルのユーザーも大いに楽しみにしていてもらいたいと思う。
総評として、新型BRZとGR86はそれぞれ似て非なるものといえる。雪道や悪路でのトラクションまでを検証したBRZはスバルらしい乗り味と言えるし、よりハイスピードでオンロードのトラック性能をドライバー中心に煮詰めたというGR86は現在のGRブランドの方向性を示していたと言えるだろう。
どちらのクルマも従来モデルを大きく上まわる速さを手にしており、86/BRZのワンメイクレースのようなカテゴリーで従来モデルを使っていたユーザーは、今後の行く先を心配しているに違いない。GRカンパニーとスバルは86/BRZレースについて今後も継続すると断言しているが、新型との入れ替え、あるいは混走などを含めてさまざまな展開を現在協議しているということだ。おそらくは2022年度になってその運営の行く末先が明確化されるだろうとの事なので、関係者は今しばらく見守っていく必要がある。
なお、今回のGR86/BRZは外観的にも大きな変更を受けているが、従来のイメージを損なわずに細かな作り込みによって新しい形を作り上げたところは着目すべきポイントである。
ルーフはアルミ製で軽量化し、ボンネットフードやフェンダーもアルミ化して軽量化するなど、クルマトータルの重量は従来よりも75kg軽量化されているという。排気量アップをしたにもかかわらず軽量化されたことは技術の進歩の証である。
一方、運転支援機能や衝突安全性など先進の安全装備などで重量が増加する部分もあり、軽量化した部分がちょうど相殺されるような形で車両総重量としては従来モデルとほぼ同等に仕上がっているということだ。同じ重量でパワーが高まっているのだからパワーウエイトレシオ、トルクウエイトレシオはその分向上するのは必然であり、新しいFRスポーツの走りの領域を切り開き、またスポーツカー好きへの魅力的な提案となっている。