ここ10数年ぐらいで当てて停める人の方が珍しくなった
とはいえ買い替えが進んでフランスの路上を走るクルマが入れ替わるにつれ、事情は徐々に変わっていった。ボディ同色にちゃんとペイントされたバンパー、次いでMT車のように微低速域のビミョーな加減が利かない・操作ができないDCTツインクラッチやトルコンATが普及しだしたがためだ。
こうして、ここ10数年ぐらいで当てて停める人のほうがむしろ珍しくなった。だが、いかにも高価そうなドイツ車の同色バンパーにわざわざ接触したがるドライバーはいない一方で、たとえばルノー・カングーのような非塗装のウレタンバンパー相手なら、安心して昔通りにふるまっても大丈夫、と考える人が、路上で多数派を占め続けている。ポジティブにいえば、ドライバー同士がけっこう互いのクルマを観察しているし、ネガティブにいえば足元を見ている証左でもある。いずれインパクトの瞬間に駆動力や加速度Gを殺すのは、昭和から平成中期にかけての、高等テクニックになってしまった。
それでも、相手のクルマを押しのけたりバンパーがもげそうになるほど激しくプッシュするような、ゴリゴリの武闘派に会う確率はゼロではない。大抵は、脳内アップデートに失敗している層か、根っからの不器用ドライバーか、本気でヤバい人といったケースなので、傷だらけバンパーの前後には、あえて停めたがらないのが今のフランスの路上感覚ではある。傷つけられて困るようなクルマは、表通りなんぞに停めてはならないのだ。
そう日本人に説明すると、何て治安が悪くて駐車事情が難しいのかと、渋面を見せる人が多いが、レンタカーの返却時も中古車の下取り時も、クルマのカタチさえ残っていれば細かい傷には無頓着という妙な心地よさはある。タイヤの空気圧もロクに管理されていないカーシェア車両に平気で乗り込めるのと、どっちが無神経か? じつはその程度の感覚の違いなのだ。