レシプロエンジンの性格はカムで決まる
ベースが同じエンジンでも、カムの作用角が大きくリフト量が多ければ、レーシングエンジンのように高回転高出力型のエンジンになるし、作用角が小さくリフト量も少なければ、中低速重視のファミリカー的エンジンになる。
だったらひとつのエンジンに、そのふたつのカム山を組み込んで、それを油圧で切り替え、バルブの開き方を可変させてパワーと低燃費、扱いやすさを両立させようという発想で生まれたのが、ホンダの誇るVTEC(バリアブル(V)バルブタイミング(T)アンド リフト・エレクトロニック(E)コントロール(C)システム)だ。
1)インテグラ(DA)
このレシプロエンジン史に残る画期的な仕組みが実用化されたのは、1989年。2代目インテグラに搭載されたB16Aが最初だった。
初代インテグラのZCエンジンも、ロングストローク+リフト量の多いロッカーアーム式にすることで、低速トルクと高出力(130馬力)を両立させた名機。B16AはそのZCを越えるべく、当初140馬力を目標に開発がはじまったが、第一期・第二期のホンダF1エンジンの設計に携わった川本信彦氏(当時本田技術研究所社長)の「どうせならリッター100馬力を目指せ」という鶴の一声で、新技術VETCの投入が決定!
1.6リッターで160馬力。しかも低中速域でも扱いやすくて、低燃費という理想のエンジンが出来上がる。
このB16Aを積んだDAインテグラは、足まわりも四輪ダブルウイッシュボーンを採用し、シャシー性能でも一歩抜き出た存在だった。
2)NSX(NA1)
1980年代後半から、F1を席巻していたホンダエンジン。1988年に1.5リッターV6ターボで、16戦中15勝しアイルトン・セナがチャンピオン。翌1989年からは3.5リッターV10のNAエンジンでアラン・プロスト、1990年にはセナが再びチャンピオンに、というホンダの黄金時代があった。
そうした最強のホンダの最強のロードカーを求める声に応えて1990年に登場したのが、本格ミッドシップスポーツのNSX。
革新的なオールアルミボディで、ニュルブルクリンクを走り込み、当時、世界ナンバーワンといわれるハンドリングを持っていた。
その心臓部は、F1直系ともいえる高性能エンジン「C30A」が投入された。
NSXがニュルで市販車最速タイムを塗り替えたときのライバルたちは、日産のスカイラインGT-Rにせよ、ポルシェ911ターボにしてもターボエンジンだったのに対し、NSXはNA3リッター。しかもパワーはGT-Rと同等の280馬力を達成!
NAならではのドライバビリティと実用域での力強さや扱いやすさに優れたC30Aは、NSXの大きな武器だった。これもVTECの技術あってこそのパフォーマンス。