ここを走り切れれば世界中を走れる!?
私も何度か北コースを走ったことがあるが、コース幅は狭く、ランオフエリアはほとんどなく、アップダウンがきつく、ブラインドコーナーだらけの超ロングコースは、速いクルマほどキツい。前後左右だけでなく、上下にも強烈なGがかかるので、「走る、曲がる、止まる」という基本性能が高く、しかもあらゆる状況でドライバーの意のままに動いてくれる、コントロール性に優れたクルマでないと速く走れない。また耐久試験の場としても理想的な環境であるため、ここで問題なく走れるクルマは、世界のどこでも優れた走行性能を発揮できると言われている。
現在ではニュルブルクリンク周辺には、世界中の自動車メーカーやタイヤメーカーが開発拠点を置き、毎週のように設定されている「Industriefahten(インダストリーファーテン:メーカーが開発のためにコースを使用する日)」を中心にクルマを鍛え続けている。ドイツメーカー以外では、アストン・マーティンやジャガー、ヒュンダイなどが、近隣に巨大な開発センターを設置。いくつかの日本メーカーも秘密のガレージを持っている。
ニュルブルクリンクといえば、ホンダ・シビック・タイプRとルノー・メガーヌR.S.の戦いなど、自動車メーカー同士による熾烈な最速ラップ争いでも有名だ。現在の最速ラップは、2018年6月29日にポルシェ919ハイブリッドEvoが記録した5分19秒546。WECのLMP1マシンを、レギュレーションに関係なく絶対的な速さを追求して改造した、「無差別級」のモンスターマシンは、平均速度234.69km/hを記録。まさに狂気の沙汰である。ちなみに市販量産車最速は、つい先日の6月24日に、ポルシェ911 GT2 RSマンタイ・パフォーマンス・キット装着車が記録した6分43秒300で、平均速度は185.87km/hだ。
なお、北コースとGPコースは、インダストリーファーテンとイベントがない日は「Touristenfahten(トゥーリステンファーテン)」とされていて、誰でも自分のクルマを持ち込んで走る事ができる。走行料金は、北コースが月〜木曜日は1周25ユーロ(約3300円)、金〜日曜日および祝日は1周30ユーロ(約4000円)。GPコースは15分30ユーロとなっている。どちらも走れる年間チケットは2200ユーロ(約29万円)である。
トゥーリステンファーテンは現在、コロナ禍で中止されているが、復活した際には、グリーン・ヘルの恐ろしさを体験してみるといいだろう。ただし一般のレンタカーでは走行できないので、ニュルブルクリンク近郊にいくつかある、サーキット走行専用のレンタカーショップでクルマを借りるのが、保険の点なども含めてオススメだ。
日本からニュルブルクリンクへ行く際には、フランクフルト空港からレンタカーで向かうのがベスト。アウトバーンを3号線、48号線、61号線と乗り継いで「Wehr(ヴェール)」というICで降り、一般道を27kmほど走ると到着する。走行距離は約160kmで、所要時間は1時間40分ほど。
ちなみに「ニュルブルクリンク(Nürburgring)」という名称は、街の中心に「ニュルブルク(Die Nürburg)」という山城があるニュルブルク村にある「リンク(Ring)」という意味。「リンク」とは、ドイツ語で「環状のもの」を指す言葉で、サーキットやスケートリンク以外にも、指輪や体操のつり輪、同好会(サークル)などもリンクと呼ぶ。また日本では、よく「ニュル」や「ニュルブル」などと略されることがあるが、どちらもドイツ語的には微妙で、ドイツ人には通じないのでご注意を。