ストロングハイブリッドで燃費基準を達成しても高額化は不可避
ただし、マイルドハイブリッドの採用に基づく燃費向上率は、3〜6%と小さい。これでは全車電動化は実現できても、2030年度燃費基準を達成できない。前述の通りN-BOXの場合で31%の燃費向上が必要になるからだ。軽自動車メーカーの強敵は、人気獲得の道具に利用されやすい国や自治体の方針ではなく、2030年度燃費基準だ。
ヤリスクロスが搭載するストロングハイブリッドのWLTCモード燃費は、1.5リッターのノーマルエンジンに比べて、燃費向上率は50%前後になる。30%を達成するには、マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドの中間的なシステムが必要だ。
問題は価格だ。ストロングハイブリッドの価格は、安く装着しているフィットでも、価格上昇が約35万円になる(グレードはホーム同士で比較)。N-BOXカスタムLに35万円を加えると、約212万円に達する。N-WGNの標準ボディとなるLホンダセンシングでも約171万円だ。これでは軽自動車は成立せずに消滅する。
軽自動車にとって許容可能な価格上昇を考えると、20万円が限界だ。この金額ならN-WGNで標準ボディのLは約156万円になる。割安感は薄れるが、N-WGNではなく上級のN-BOXに当てはめると、標準ボディのLと同等の金額に収まる。
それでも20万円の上乗せで30%の燃費向上を実現するのは難しい。軽自動車の開発者は「軽自動車の排気量は、燃費効率を考えると800cc前後が好ましい」というから、軽自動車税を高めずに排気量を拡大するなどの工夫も必要だ。
また、今は全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが人気だが、燃費では不利になって価格も高い。N-BOXやワゴンRなど全高が1700mm以下の車種について、魅力を高める商品開発も求められる。さらにいえばアルトやミライースなど、低燃費で低価格な軽自動車の価値も高めたい。
維持費の安い軽自動車は、公共の交通機関が未発達な地域において、移動の自由を支える大切なインフラになっている。ユーザーの出費を極力高めずに、2030年度燃費基準に対応させる配慮が必要だ。
開発状況によっては、2030年度燃費基準の軽自動車に、別枠を設けることも考えたい。二酸化炭素の排出抑制は大切だが、そのために生活権を奪われるユーザーが生じたのでは、本末転倒になるからだ。