開発時間の短さが奏功! 新しくもない「ルーミー」がいま実質販売1位に君臨する理由とは (2/2ページ)

勢いに乗る軽自動車に対抗するために開発された

 ルーミーを商品化した裏話をすれば、軽自動車の好調な売れ行きもあった。2014年にはスズキの先代(初代)ハスラーが好調に売れて、スズキとダイハツの販売合戦が激化している。販売会社が在庫車を届け出して中古車市場に卸す販売台数の粉飾も活発に行われ、同年12月の軽自動車届け出台数は、スズキが前年の1.5倍、ダイハツも1.4倍に達した。2014年の新車販売台数に占める軽自動車の比率は、40%を超えている(2020年は37%)。

 このときに慌てたのが、少数のOEM車を除くと軽自動車を売らないトヨタだ。自社の小型/普通車から、他社の軽自動車に乗り替える顧客増加に危機感を抱き、ダイハツに軽自動車に対抗し得る小型車の開発を命じた。

 問題は時間で、軽自動車市場への顧客流出を止めるには、大急ぎで開発する必要がある。現行タントから採用を開始した新しいDNGAプラットフォームを待つ余裕はない。直列3気筒1リッターエンジン、プラットフォームなどは、ダイハツ・ブーン&トヨタ・パッソから流用して約2年間でつくり上げた。

 非常に辛い開発で、ルーミーは動力性能、走行安定性、乗り心地、ノイズ、後席の座り心地などに今でも改善の余地を残すが、売れ行きは前述の通り絶好調だ。

 成功の理由は、時間がないこともあり、ダイハツ・タントやホンダN-BOXなど売れ筋になる軽自動車のスーパーハイトワゴンをソックリ踏襲するクルマづくりを行ったことだ。時間があると「小型車だから、もう少しリヤゲートを傾斜させて質感を高めよう」とか、いろいろ考えたかもしれない。それをやるとユーザーニーズからはずれる。

 つまりすでに成功して実績のある軽自動車のスーパーハイトワゴンを、小型車サイズで忠実に再現したから成功に結び付いた。「良い意味で真似をするときは、余計なことを考えてはいけない」。これは商品開発を踏みはずさない鉄則だ。

 スズキは既にルーミーと同じことをソリオで実践しており、開発実績も長い。商品力を単純に比べれば、短期間で開発されたルーミーは、2016年の発売時点で当時のソリオに負けていた。

 ただしスズキは軽自動車が中心のメーカーで、小型車の販売力はトヨタが圧倒的に強い。ソリオ以外にライバル車は存在せず、トヨタにはヴォクシー&ノアのようなルーミーにダウンサイジングする母体も豊富だ。そこで大ヒットした。

 ルーミーには以上のような経緯があるので、購入するときはソリオも必ず試したい。そのうえで購入の判断をされるのが賢明だと思う。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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