世界に名だたる「ドライバー殺し」の難道路! 初心者は一生抜け出せない無限地獄「凱旋門」のランナバウトとは (2/2ページ)

「ルール破られの名所」にも一定の秩序が存在

 とはいえ凱旋門のような交通量の激しいランナバウトを複雑にしているのは、入口にあるはずの鎖線が消えてしまっているせいだ。すると、ルールは破られるためにあるフランスでは、誰もが分かっていながら右側優先を主張しつつ、円周内に確信犯で突っ込んでくる。ランナバウトの円周から出ようとするクルマの鼻先を、進入車が「わざと」かすめて行く、そんなグレーゾーン活用だ。かくして厳密に「優先権」を読みながら走っている割に、スキあらばエムバペ(パリサンジェルマン所属のフランス代表サッカー選手)の超高速カウンターよろしく、裏のオープンスペースに飛び込みたがる、それが平均的なフランスの運転者の感覚だ。

 だがそんなルール破られの名所であるにも関わらず、一定の秩序はある。それこそ「ポジショニング」の感覚と問題で、広いランナバウトに6時方向から入って真っ直ぐ12時方向に抜けるには、あまり左に寄せすぎると7~11時方向に抜けたい他車の邪魔になる。逆に1~5時方向に出たければ、右ウインカーを出して右を閉めていくと他車はたいてい譲ってくれる。要は、広いランナバウトでは内周寄りほど実効的優先権が強く、右から無理に寄せていくと先に円周内を走っているクルマとカチ合う。つねに車幅1台分を左右にマージンとして見ておくのが得策だ。すると後方から来るクルマは間違いなく、その空きスペースを埋めにかかるが、必要以上に寄せて来ることはしない。

 なぜなら、詰めるとか前に出てブレーキを踏むといった、アオリっぽい動きで相手にプレッシャーを与えても相手が動じる保証がないのがひとつ目。もしそうであっても、「自分がブツけられかねない」「カラダを張った」無駄なリスクは、過度のリスクと彼らは考える。それにフランスの市街地は厳しく最大50km/h以下に制限されており、ランナバウト内では他車と直角に交わることはまずないので、慣れれば踊りの輪に加わるがごとく、ストレスのないシステムであることに気づくはずだ。

 ちなみに、ここまでクルマ同士での狭義の話で「プリオリテ・ア・ドロワット(右側優先)」を説明してきたが、クルマ以外も含めた広義のところでは、車道・自転車道・歩道なので、「車<自転車<歩行者」という、脆弱性の高い順に路上の優先順位が決まる、そんな話でもある。横断歩道で譲らない車とか、歩行者のスペースを削るように商店街を爆走する電動チャリとか、どちらが秩序だって文明的であるか、考えさせられるはずだ。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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