生産環境や環境面、コストなどを考えると新型の開発は難しそうだ
2005年11月にはエンジンを2.2リッターのF22C型に変更する大規模なマイナーチェンジが行われたが、ボディ・シャシーのセッティングは従来のものを踏襲。だがシート形状をはじめ内外装の細部が見直され、さらなる質感アップが図られている。
2007年10月には、専用の大型スポイラーとサスペンションが装着され、S2000のスポーツカーとしての側面が強調されたモデル「タイプS」が追加。また全車にVSA(横滑り防止装置)とサテライトスピーカーが標準装備された。
こうしてほぼ非の打ち所のない万能性を備えるに至ったS2000だが、2009年6月末、多くのファンに惜しまれながらも生産終了。2020年6月にはホンダアクセスから「20年目のマイナーモデルチェンジ」をコンセプトにした純正アクセサリーが発売されたものの、S2000自身は世代交代を受けることなく、生産終了から12年もの時が過ぎた。
では、新世代のS2000の誕生を阻む要因は、一体どこにあるのだろうか?
一つは生産拠点の問題だろう。S2000の生産においては、少量生産のスーパースポーツカーであるNSXのために作られた栃木製作所高根沢工場(2004年5月より鈴鹿製作所TDラインに移転)を活用することが可能だった。
だが、2022年3月にはS660の生産が終了する予定となっており、現行型NSXの生産工場「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター」はアメリカ・オハイオ州にあるものの、NSXともどもその先行きは不透明。つまり現時点で、S2000のような専用部品と手作り工程の多い少量生産車に適した工場が、存続の危機に瀕しているのだ。
2020年度の四輪事業の営業利益率が1.6%と低水準にあり、工場の閉鎖やF1からの撤退、車種数の整理など大規模なコスト削減策を相次いで決定している昨今では、なおのこと維持が困難なことだろう。
また、S2000が持つ魅力の大きな柱であるエンジンも、環境規制が当時より遥かに厳しくなり、電動化への社会的要請が全世界的に強まっている現在では、F20Cのような専用設計の超高回転高馬力型NAを望むのは難しい。現実的にはシビック・タイプRに搭載されているK20C型2.0リッター直4直噴ターボエンジンを縦置きに対応させたうえ、さらなる性能アップを図るのが妥当な線と思われる。
それでもコストを度外視さえすれば、新たなS2000を発売することは不可能ではないだろうが、当然ながら販売価格は大幅に上昇する。安全基準も22年前より大幅に強化され、価格上昇の大きな要因となっていることを考慮すると、その販売価格は600万円超、ともすれば初代NSXデビュー当時の価格(約800万円)に近くなるのではないか。これでは購入ユーザーがごく一部の富裕層に限られてしまう。
だからこそ、S2000ユーザーには次に乗り換えるべきクルマが存在しない。筆者もその一人であり、恐らく生涯乗り続けることになるだろうが、S2000を上まわる魅力を備えた新たなFRオープンスポーツカーがホンダから生まれることを願わずにはいられない。……たとえそれが無理難題だとしても。