酒に酔った人を乗せることはさまざまなリスクが伴う
酒類提供店舗の休業自粛が出る前の東京では、「サラリーマンは会社で飲み会自粛や禁止となっているのでめっきり減りました。繁華街は若者ばかりですが、マスクもせずに大騒ぎしているので、繁華街を通り過ぎる時には“回送表示”にすることも多いです(そのような若者は乗せたくない)」と高齢ドライバーは語ってくれた。
もともと、目的地(自宅など)を告げられないまでに酔ってしまったひとは、介助者の同乗なしのケースでは乗車拒否することが許されていた。運転士と満足に受け答えできないことだけでも問題だが、たいていは車内で寝込んでしまうのが、さらに問題を厄介にする。
ある事情通は「運転士が男性で、寝込んだ乗客が女性といったケースは論外ですが、酔って寝込んだお客が男性であっても身体をさすったりして起こすことが禁止されているのです。まずは運転士が大声を出すなどして自力で目を覚ましてもらうようにしますが、それでもダメならば、最寄りの交番前や警察署に車両を停め、警察官に起こしてもらうのが大原則となっています。また、車内で嘔吐されるとさらに面倒になります。こうなると、せっかくのロング客(長距離利用)でも、交番や警察署に立ち寄ったり、嘔吐された車内の清掃などに時間を取られ、最悪はその後の営業ができずに営業終了ということにもなってしまうのです」と語ってくれた。
東京隣接県でも、若い女性などでは「あそこのタクシー会社の運転士さんは怖い」などとして、利用を控えるという話は聞くし、いまでもワンメーター(短い利用)ではブツブツ言われることはあるようだが(筆者は深夜羽田空港から近くのホテルまで乗ったら、到着するまで延々と文句をいわれた経験がある)、中国のように乗車前に目的地を告げると、「俺をこんな時間にそんなところまで連れて行くのか」と怒鳴られたり、「100元払うならいってやる(メーターを入れると40元程度)」と持ち掛けられたり、「ここで降りろ」と途中で降ろされたりといった、そこまで極端な“武闘派運転士”ばかりという利用環境ではないが、正当な理由のない乗車拒否などがまったくないわけでもないのも事実。
ただ前出の高齢運転士は、「年齢を問わず、タクシー運転士に対し、見下す態度をとるひとは多いですが、いまどきの若者はとくに目立つ」と嘆いている。タクシー乗車時のマスク着用義務は、多々あるタクシー運転士と乗客との間のトラブル要因のなかで、コロナ禍ならではのトラブルを避けるためのひとつの対策なのである。