EVを選択することによって暮らしを再考するきっかけにもなる
それだけでなく、太陽光発電を自宅に設置すれば家庭電化製品の利用も脱炭素化につながる。家で使う道具のほとんどは、スマートフォンを含め電気で動くものだからだ。しかし、もしEVを選ばなければ、自宅に太陽光発電を採り入れようと思わず、あるいは気持ちはあっても何百万円もの費用はすぐには用意できないなど、やれない理由はいくつも思い浮かぶ。ところがEVに乗ることで、費用を投じる優先順位に変化が訪れる可能性があるのだ。
移動と家庭で使う機器の脱炭素が実現すると、次には食べるものや着るものなども脱炭素化できないかを考えるようになっていくだろう。
CO2排出量がもっとも多い産業分野には、製造業や建設業とともに、農林水産業も含まれる。まさに食べ物を作るときもエネルギーが消費され、CO2を排出している。そこで、化学肥料を使わず、温室栽培を行わず、露地物の季節の野菜を選ぼうという気持ちが沸き起こるかもしれない。それらの野菜は、形がよくなかったり、虫食いの跡があったりするかもしれない。だが、CO2排出量を抑えた栽培が行われ、同時にまた、滋味を含んだ味を楽しめることになる。ただし、値段はやや高くなるだろう。
送電網からの電力をなお利用する際にも、単に電気代が安いから石炭火力の電気も使う新電力を選ぶのではなく、電気代が若干上がっても再生可能エネルギーや原子力発電での電力を使いたい気持ちになるかもしれない。原子力発電にはまだ不安や嫌悪感を覚える読者が多いと思うが、じつは米中では既存の軽水炉と異なるより安全な次世代核エネルギー路の開発が進行している。これに、欧州や東南アジアも注目している。
露地物の野菜や、脱炭素の電気代などで生活費が余計に掛かるとしても、EVなら走行のための燃料代がガソリンの約半分になることで相殺できるかもしれない。
CO2を排出するクルマが悪いという意味だけでなく、EVに乗ることは暮らしと環境との関わり、そして生活費の使い方の優先順位を再考するきっかけになる。いずれにしても、これまでの価値観のままの暮らしをしていたら、環境問題は解決しないことを教えてくれる。そうすることで、脱炭素へ向けた国民的な理解が広まっていき、最終的には産業界を動かすことにもつながることになる。市場動向は、消費者が決めることだからだ。