渋滞吸収走行のポイントは「スローイン・ファストアウト」
こうした「渋滞吸収走行」の効果について、2009年6月、渋滞学の専門家である東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授の研究室とJAF、警察庁が共同で実証実験を実施している。
実験の舞台は中央道上りの小仏トンネル付近。夕方の渋滞が始まる時間帯に、4台ずつ2車線に分かれてペースメーカーを走らせ、相模湖インターの少し手前より時速を周囲より 20km/h程度下げ,車間距離をとって安定走行させてみたところ、1台目のペースメーカーの速度は、一時37.9km/hまで低下したが、4台目は41.5km/hで通過し、平均速度が1割上昇。4台目以降の一般車の速度は、渋滞が起こる前の80km/hまで回復し、「渋滞吸収走行」が渋滞解消につながることを証明した。
西成活裕教授によると「渋滞吸収走行」の成否のポイントは「スローイン・ファストアウト」。
つまり、渋滞にはゆっくり入り(スローイン),渋滞からは素早く抜ける(ファストアウト)ことが肝要で、こうすることで最後尾の成長を抑えるとともに、渋滞の先頭部を早く削っていくことのダブルの効果があり、渋滞長を効果的に短くできるとのこと。
ただし、渋滞吸収走行を実施する場合、2つのハードルがあると西成教授はいう。
ひとつは、車間距離を開けるとそこに割り込んでくるクルマがいる、ということ。
実験中も、混み始めた状態で車間を40m空けて走っていると、割り込まれてしまうことが多かったが、しばらくすると割り込みをしないクルマが周囲に徐々に増え、やがて後ろから容易に追い抜きができなくなり、安心して吸収走行を安心してできるようになったらしい。
もうひとつは、吸収走行を行った本人にとっては,総旅行時間はあまり変わらないことも多いこと。
前述のとおり、「渋滞吸収走行」を行なったペースメーカーの通過後は、渋滞発生前の速度に回復しているが、ペースメーカーの4台は、それらのクルマより明らかに遅い……。
誰かが犠牲になって、全体の渋滞を防ぐか、みんなで車間距離を開いて渋滞を防がないと、メリットがないというのが痛いところ。
個人的には一部の善人による「渋滞吸収走行」に頼るより、電子制御スロットルのプログラムを改良し、アクセルを一定にしたまま上り坂にさしかかり、速度の低下を感知したら、コンピュータでスロットルをコントロールし、速度が落ちないように改良するのが理想的だと思う。
それらの技術改良が実現するまでは、「渋滞吸収走行」の考え方を広めていくより、「上り坂になったら、黙ってアクセルを踏み足すこと」というのを、ドライバー一人ひとりに徹底させた方法をみんなで考えた方がいいのでは?