スズキもダイハツも勝てない! 誰もN-BOXを超えられない理由とそこにあるホンダの苦悩 (2/2ページ)

国内におけるホンダ車全体がダウンサイジングしていった

 しかし現行タントは、2019年に発売されて2020年度は前述の12万8218台だ。新旧タントの届け出台数を発売の翌年度同士で比べると、現行型は先代型の60%しか売れていない。現行タントは先代型に比べると、走行安定性や後席の座り心地を向上させて、シートアレンジも高機能だ。商品力は向上したが、話題性が乏しく売れ行きも伸び悩む。スペーシアも含めて、ライバル車はN-BOXに太刀打ちできない。

 さらにいえば同じホンダのN-WGNも低調だ。2020年度の届け出台数は6万1421台だから、N-BOXの31%に留まる。N-WGNも後席が広く、荷室はボードによって棚状に活用できる。車間距離を自動制御できるアダプティブ・クルーズコントロールは、N-BOXでは時速25kmを下まわると解除されるが、N-WGNは停車するまで制御を続ける。価格はN-BOXよりも20万円ほど安い。

 このようにN-WGNの商品力はN-BOXと同様に高いが、人気ではおされてしまう。スズキの販売店では以下のように説明した。「ワゴンRの競争相手になるホンダ車は、機能や価格を考えるとN-WGNだが、お客様が比べるのはN-BOXだ。ハスラーなども含めて、どの軽自動車でもN-BOXと競争する」。

 そして最近は、安全装備や運転支援機能の採用、消費増税などによってクルマの価格が高まった。2001年に発売された2代目ステップワゴンのDの価格は196万円だったが、2005年の3代目G・Lパッケージは217万3500円だ。2009年の4代目G・Lパッケージは225万7000円になり、2015年に発売された現行型のGは、発売時点で248万円だった。改良を受けた2021年式Gホンダセンシングは271万4800円だから、約20年間でステップワゴンの価格は1.3〜1.4倍に上昇した。

 その一方で平均所得は1990年代の後半をピークに下がり、今でも20年前の水準に戻っていない。クルマが値上げされて所得が減れば、新車に乗り替える時は従来よりも小さな車種を選ぶ。その結果、ステップワゴンからフリード、さらにN-BOXへというダウンサイジングの流れが生まれた。

 ダイハツやスズキには、ダウンサイジングの母体になる小型/普通車は少ないが、ホンダは豊富だ。つまりN-BOXはホンダのダウンサイジング需要にも支えられて好調に売れている。

 この影響でN-BOXが売れ行きを伸ばすほど、ホンダの小型/普通車は登録台数を下げる。2020年度に国内で新車販売されたホンダ車のうち、N-BOXが32%を占めた。ホンダのブランドイメージも変わり、かつてはスポーティカーが中心だったが、今は小さなクルマのメーカーになった。その結果、軽自動車の届け出台数にフィットとフリードの登録台数を加えると、2020年度に国内で売られたホンダ車の81%に達する。N-BOXの高人気を発端に、国内におけるホンダ車全体がダウンサイジングした。

 この販売動向はホンダにとって喜ばしいことではなく、最近は決算期に実施する残価設定ローンの低金利やディーラーオプションプレゼントから、N-BOXをはずすようになった。商品が好調に売れるのは好ましいことだが、売れすぎてコントロールが利かなくなると、ほかの車種に悪影響を与えてしまう。その典型がN-BOXだ。昨今指摘されている生態系の変化に似たところがある。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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