ひと昔前は値引きして販売することは一切なかった
新車購入時に値引き販売するのは、いまどき当たり前といっていいのだが、大昔(バブルのころ)には新車を値引きして買えることを知らないひとも目立っていたようだ。
「新人のころに、ある老夫婦のお客さまが来店され、私が応対しました。車両説明をして、その後商談をはじめたのですが、お客さまからは値引きについてのお話がなく、『それではこれで』みたいな感じでそのまま注文書の作成に入ることになりそうだったので、こちらから『多少ですがお値引きさせていただきます』と売る側から値引きを提示したことがあります。あの当時は稀ですけど、値引きができないと思われているお客さまはいましたね」とは、ベテランセールスマン。
また、ある高級ブランドディーラーのセールスマンは、「いまは関係法令が厳しいこともあり、はっきりとわからないことも多いですが、いわゆる“反社会的勢力”などと呼ばれる方々は定価で新車を購入されると聞いたことがあります。新車購入が資金洗浄もかねていることもあるようですが、やはり、その世界では体面を重んじることもあるようです」と話してくれた。
いまから20から30年ぐらい前までは、メーカーは新車が販売現場で値引き販売されていることは公式には認めていなかったとのこと。カタログとは別紙となる価格表以外に、カタログ内にもメーカー希望小売価格として金額を表記するようになったころ、販売現場で値引き販売されていることを認めるようになったとは新車販売現場の事情通。
これは、値引きの原資が基本的にディーラーの利益からであることが挙げられる。インセンティブ(販売報奨金)というものがメーカーからディーラーへ支給され、その一部が値引き額に充当されることもあるが、インセンティブはほとんど支給されなくなった。
また、いまどきの値引きアップのカギを握るのは、下取り査定額に値引きが足りない分を上乗せすることなのだが、これも本来より高く下取ることになるので、ディーラーが、自社利益の一部を値引きにまわすことになる。
われわれ購入者側が“値引き”と呼んでいるものは、ディーラーでは“損金”と捉えられている。定価で販売したときより、いくら損をして販売したかということで、セールスマンは会社に報告しているとも聞いたことがある。
最近はセールスマンが受け取る販売マージンについて、単に何台売ったかだけでなく、粗利ベースでも考慮するところも多くなっているようだ。たとえば価格の安い軽自動車を限界まで値引きして10台売るよりは、高級ミニバンを値引きそこそこで5台販売したほうが、販売利益はかなり高いので、人事考課が高くなるというのである。過去には販売台数だけ積み上げるトップセールスマンは会社の英雄であったが、いまどきはそれだけでは会社にあまり利益貢献していないということで、異動させられてしまうこともあるようだ。