電子制御の進化でマシンが速くなるとドライバーの負担は増える
電子制御による可変制御が許されれば、近代のF1もラップタイムは大幅に短縮できるはず。速くなりすぎてドライバーに危険度が増すということも規制の理由となっているのだ。
こうした規制をうまくすり抜けて、より速く走らせようと2020年に登場したのがメルセデスAMGペトロナスF1チームが採用したDAS(デュアルアクシスステアリング)だ。これはステアリングを押し引きすることで左右前輪のトー角を変更するシステムで、全自動ではないが可変制御技術として正当性が議論された。チーム側はステアリング機構の一部と解釈して正当性を主張したが、結局2020年は合法、2021年以降は採用不可とFIAは評決している。
僕は1996年から三菱GTO(プーマGTO)で、1998年からは三菱ランサー・エボリューションでN1耐久レース(スーパー耐久レース)に参加していた。その理由は国内、いや世界的に見てもABSや電子制御4WDシステムの使用が許される唯一のレースで、市販車に装着されている可変装備の採用も認められていたからだ。
GTOの市販車には可変空力デパイスが装備されていた。高速走行時にフロントノーズ下のアンダースポイラーが自動的に引き下がり、リヤスポイラーは立ち上がって車の前後リフト(CL値)を抑えるのに効果的だった。
僕はそれを逆手にとり、直線の高速区間ではリヤスポイラーが下がって空気抵抗を低下させ、ブレーキランプスイッチと連動させてブレーキング時には立ち上げてリヤの安定性を図る制御にしたのだ。電子制御の変更は数値制御だけで行えるので、ハード部の変更はなく合法とされた。これは現代のDRSを先取りするシステムだった。
またランサー・エボリューションではACD(アクティブセンターデファレンシャル)やAYC(アクティブヨーコントロールデファレンシャル)の数値制御を変更し、サーキットで速さを引き出すプログラムを開発できた。
いまは一様に禁じられている電子制御可変システム。これらはクルマを速く走らせるだけでなく、緊急回避や安全運転の確立にも極めて有用だ。市販車ベースの電子制御可変技術発展の為に使用を許可されたレースがあったら、またメーカーと組んでチャレンジしてみたい。