「壊れてない?」思わず聞くほど難しい! 私は乱心か? 「WEB CARTOPとしてeモータースポーツ大会に参戦します!」。編集部員を前にそんな言葉を発した自分自身に耳を疑った。眼前に広がるのは明らかにポカンとした編集部員の顔。そりゃそうだ。彼らがゲームの話をしてもほぼ理解できず、ここ十数年でまともにプレーしたゲームといえば、F1やスーパーGTのスポンサーでもお馴染みの「にゃんこ大戦争」だけだ。
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確かににゃんこ大戦争は無課金ながらもやりこんでいる。ちょっとした大会ぐらいなら上位に食い込む自身すらあるぐらいだ(対戦ゲームじゃないからどうやって闘うのかは不明ながら)。だが、それとて時間つぶしのレベルにすぎない。まともにドハマリしたゲームといえば、誰も知らないだろうが懐かしのPCゲーム「ザナドゥ/ザナドゥシナリオ2(日本ファルコム)」「デゼニランド/サラダの国のトマト姫(ハドソン)」にまで遡らなくてはならないのだ。
そんな私が声も高らかにJeGTへの参戦表明をしているのはナゼか? それは「最近のレーシングシミュレーターは、実車同等。シミュレーターで速ければ実車でも速く走れる、逆もまたしかり」という言葉をアチラコチラで聞いたからだ。全開のエンジン音を聞いただけで血の温度が上昇し、サーキット走行にエクスタシーを感じる私だけに、衝動的に声を発してしまったのだった。
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そこからは優秀な編集部員たちが凄まじい勢いで準備を行い、気がつけば社内に筐体が用意され、認定ドライバー2名も決定していたという次第だ。
さて、JeGTなる大会は、グランツーリスモスポーツを使用し、マシンはGr.3で闘うというレギュレーションだ。オンラインで4ラウンドが行われ、ポイント上位のチームが決勝大会に進めるという中身。
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勢いで参戦を表明したものの、よくよく詳しいスタッフに話を聞けば、とても素人が「勝てる」ような大会ではなかったようだ。ワールドワイドで活躍するドライバーが多数参加し、それはもう草レースレベルしか走ったことがない私が、ある日突然スーパーGTに出るようなものともいえる。あぁ、私ってばなんてことを言ってしまったんだろう……後悔しても遅い! そこで編集長権限を利用し、「我々WEB CARTOPレーシングはエンジョイ勢とする! メディアチームらしく、eモータースポーツがどんなものかを世間に伝え、参加のハードルを下げることで競技人口を増やすことを目的に掲げる!」と宣言。我ながら怪しいマニフェストを掲げるうさんくさい政治家のようだ。だが、編集部員たちはホッとした様子。
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このあとに2名の認定ドライバー、兒島弘訓選手、大田夏輝選手と話をしたところ「eモータースポーツはゲームですから! 楽しんでやることが大切ですよ! WEB CARTOPレーシングはいい目的意識だと思います」との言葉をもらった。トップレベルのドライバー2名もそう言ってることだし、まぁなんとかなるか! 生来の楽天家の血が出た。
さて、全部で4ラウンドあることをお伝えしたが、各ラウンドは2レースで構成される。その2レースの結果で、上位はそのラウンドの決勝レースにストレートイン、下位は敗者復活戦ともいうべきルーザーズレースに進み、そこで上位に食い込めば決勝レースに参加することができるという仕組みだ。
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さて、参戦発表から準備期間があまりとれないラウンド1はアメリカのラグナセカで行われる。ここも編集長権限を振りかざし、編集部員の原田を送り込むことにした。もちろんこれは断じてパワハラではない! 唯一のグランツーリスモスポーツ経験者だからである。
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そして第2戦はスペインのカタロニアサーキットだという。「ここだ! ここしかない!」私は第2戦に出場することに決めた。30年来の熱狂的なF1ファン、しかもホンダに魅了されてきた私にとって、第3戦に予定されている鈴鹿も捨てがたい。だが、F1と同時に「クレ(FCバルセロナのファン)」を自認する私に出てくださいと言っているようなものではないか! 私が尊敬するアラン・プロストも、1993年、4度目のワールドチャンピオンを獲得したこの年にここでポールtoウインを達成している。というわけで、カタロニアを走り込むことになった。
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「ん? なんだこれ? 機械壊れてないか??」、思わず傍らのスタッフに聞いた。「何がですか? いまチェックで走りましたけれど何も問題ないと……」。いや……そんなハズは……。F1のオンボードで何百周も見たカタロニアがまるで別世界……昔スタッドレスのテストで走ったことのあるスケートリンクぐらい走れない。そしてこの瞬間悟った! このJeGT参戦が無謀すぎる挑戦であったと!
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そうはいってももう引き返すことはできない。しかも「カタロニアはね、庭……といっても過言じゃないかな」なんて言葉すら吐いてしまったあとだ。もはや大言壮語でしかないのだが、練習に励む以外できることはない。昼間はWEB CARTOPの編集作業に、夜は深夜までグランツで走りまくりという生活を2週間ほど続けた。冗談ではなく帰りの首都高がカタロニアに見えてくるわ、家に帰ってシャワーを浴びていても耳の奥でNSXのエンジン音が鳴り響くわで、身体の芯までグランツに捧げたのだ。