新車でも細かな調整が必要な自動ブレーキの後付はほぼ不可能
結論からいえば、純正でシートベルトが備わっていないクルマについては装着義務の対象ではないので、違反ではなく、シートベルトなしで高速道路を走るのも合法だ(安全面のリスクが大きいのは別の話)。また、冒頭で2021年11月以降に新型車に義務化されるAEBSなども、それ以前に製造されたクルマについては追加装備することは求められないことになっている。
なぜなら、クルマの規制の基本となる保安基準は道路運送車両法に基づくものであって、法律には「法の不遡及」という大原則があるからだ。
不遡及というのは遡って適応しないという意味である。もし、それを許してしまうと過去には罪に問われなかった行為を、後に違法行為として罰することができてしまうからだ。そのため、保安基準についても不遡及というのが基本だ。そのため、そのクルマが新車当時の保安基準を満たしている限りは、現代の基準から遠く離れていようと公道を走ることの問題とはならない。
ごく一部、大型トラックの速度リミッターや、ディーゼル車の排ガス処理などが後付けで求められたこともあったが、あくまで例外であって、最新の保安基準を満たす必要はない。つまり、既販車については新しい規制に対応してユーザーが改良の義務を負わされるということは“原則的”にはないのである。
とはいえ、ここ数年交通事故が減っていることの要因として、AEBSを始めとする先進運転支援システムが貢献していることは間違いなく、可能であればAEBSは後付けしてでも装備したほうがいいはずだ。
しかし、現実的にAEBSの後付けは、かなりハードルが高い。仮にESC(横滑り防止装置)を備えているクルマであれば制御プログラムの改良で緊急ブレーキをかけるように改良することはできるかもしれないが、そうした機能を持たない世代のモデルでは、ブレーキペダルを踏む以外に制動力を立ち上げる術がなかったりする。
またAEBSの作動タイミングを決定するセンサーの後付けも非常に難しい。AEBSを標準装備しているクルマにおいては、メインセンサーがカメラにしろ、レーダーにしろ取り付け位置は車種ごとに厳密に決まっている、出荷時には調整が必要なくらいシビアだ。
そのため汎用性を持たせたAEBSというのは乗用車向けと考えると技術的に難しいと言わざるを得ない。バス・トラックであればある程度車種も絞れる上に、センサー取り付け条件も揃えやすいので可能かもしれないが……。