少ない舵角で曲がることが速さに繋がる
コーナーアプローチで左足ブレーキにより減速すると、全体重が左足にかかり、微妙なコントロールをしづらく感じた。フォーミュラカーのように完璧なサポート性のシートがあれば身体を保持できるが、TCRマシンのシートでは減速Gで身体が前後に動いてしまい、サポート性の強化が必要だ。
TCRマシンはABS(アンチロックブレーキシステム)を装備しているが、今回のようなスプリントレース(20分+1周ルール)ではABSの動作をカットすることが義務付けられていた。
ブレーキフィーリングはしかし、ガッチリとしたペダルフィールと少ないストロークで安心感がある。
富士スピードウェイでの最高速は230〜240km/h。TCRは車種バラエティに富んでおり、BOP(バランスオブパフォーマンス)を設定していて性能調整がおこなわれている。昨年までの実績から今回のシビック・タイプRにはきついBOPが設定されていて、とくにストレートスピードはライバル勢と比べて10〜20km/h遅くなっていた。これはレースで影響が大きく出そうだ。
車重は最低重量がドライバー込みで1265kg以上と定められているが、BOPによりシビックは1305kgと重くされていた。
だがストッピングパワーは強力で、直線後の第1コーナーへは150m程度の減速区間で十分な減速が可能だ。
TCRジャパンはヨコハマタイヤのレース用スリックタイヤによるワンメイクであり、グリップは十分に高い。思い切りブレーキを踏み込んでもロックアップせず、高い減速Gを発する。FFの特性で減速時にリヤがリフトし荷重が抜け、リヤタイヤがロックアップしやすくなるのでブレーキペダルを緩めて姿勢安定を保つ必要がある。
ブレーキング時の特性は、ほとんど20年前と変化していない。ただハイグリップゆえアンダーステアは弱く、ハイスピードコーナーも低速コーナーも、むしろオーバーステア傾向に悩まされることが多かったのは意外だった。パワーオンでは当然プッシュアンダーステアが起こるが、ステアリングを切り込んだ状態から切り増せばCF(コーナリングフォース)が高まり曲がってしまう。ただ、こうした走りを連続しておこなうとフロントタイヤを早く消耗させてしまい、ラップタイムが大きく落ち込んでいってしまう。
なるべく少ない操舵角でコーナーをクリアすることが安定した速さの維持に必要なのだ。こうしたタイヤの使い方、走らせ方の基本は20年前となんら変わりないのだ。
Hパターンのマニュアルトランスミッションで3ペダルを駆使して扱う時代と比べたら、はるかにイージードライブが可能で、誤解を恐れずに言えば誰でも簡単に乗りこなせてしまうのだった。そういう意味ではTCRレースはタイム差が付きにくく、今回も同一車種ではプロもアマも問わずコンマ数秒差という僅差で競われていた。
僕は初日の初走行最下位(汗)から徐々にラップタイムを縮め、レース1の予選では8位、レース2予選は6位。決勝はレース1で3位(前走2車がペナルティを受けたため)、レース2は6位というリザルトだった。
僅差のレースでタイムを縮めるのは至難の技で、こまかなセットアップを繰り返し、どうにか競えるレベルに仕上げて得たリザルトだった。
近々「レーシングドライバーの備忘録」として、今回のTCRレースでおこなったセットアップの詳細について記すことにする。