純正で62個のスピーカーが用意されたクルマも! スピーカーは数が多いほどいい音で聴けるのか (2/2ページ)

スピーカーをむやみに増やしても良い音になるとは限らない!

 そもそもいい音を再生するには、再生機器(CDプレイヤーなど)、アンプ、そしてスピーカーのグレードがモノを言う。純正オーディオ装着車に、ただスピーカーを増やせばいい音になる、という簡単な話ではない。むしろ、セッティングが難しく、サラウンド的に聞こえる可能性はあっても、音の定位などが不自然になったりしかねない。

 じつは、ボクはかつてミュージシャンの仕事をしていて、最近でも友人のレコーディングやCDのレコード化における音質チェックといった現場に、オジャマ虫として立ち会わせてもらう機会もあるのだが、最終的なマスタリングでは、ミキシングブースに置かれた比較的小さなステレオスピーカーで確認していることが通例だ。昔はオーラトーン5Cだったり、ヤマハNS-100Mだったのを覚えている。

 そう、今、マニアの世界で復活しつつあるレコードやCD、配信用音源は、あくまでステレオ環境で聴くことを念頭にミックス、マスタリングされ、それをボクたちが聴いているというわけだ(ラジカセやイヤホンでどう聴こえるかも検証しているらしい)。

 もちろん、前席の2chステレオスピ―カーだけでは、後席の人に音が届きにくいため、リヤスピーカーは必要だが、それでもスピーカーは多いほうがよい、という理由にはならない。アンプがそのままなら、スピーカーが増えたぶん、アンプの能力を超え、かえって音質が低下しかねないのである。

 つまり、ドライバー、助手席乗員の前席サウンド環境をメインと考えるなら、スピーカーを増やすより、フロントスピーカー周りをレベルアップするのが手っ取り早い方法とも言え、音の改善コストも最小限で済むはずだ。

 ちなみに、友人の日本を代表する大物音楽プロデューサーは大のクルマ好きだが、クルマのオーディオにはまったく無関心のようだ。音楽を作っている立場として、車内はリスニング環境として極めて厳しく、ならば普通にラジオが聞ければ十分という考え方らしい。

 とはいえ、大物音楽プロデューサーのように自宅にスタジオ、リスニングルームなどない、家で満足できる音量で音楽を聴くこともできない環境に住むボク(や多くの人)にしてみれば、車内は好きなだけ自由に音楽を聴けるマイリスニングルームでもある。できればよりよい音で聴きたい願望もあるわけで、そうなると、カーオーディオ以前に、音楽を鮮明に聞かせてくれるクルマそのものの静粛性の良否=リスニング環境も大きくかかわってくる。スピーカーの数を増やせば……という前に、考えるべきことはたくさんありそうなのである。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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