フィットにハイブリッドが追加されたことも影響があり……
ちなみに3代目プリウスの初期カタログを見ると、ハイブリッドシステムをふたりでペダルを回すタンデム自転車に例えて説明している。そのイラストによると、トヨタのハイブリッドでは前後に大人の男性が座り「モーター君も主役」と記されている。併記される「トヨタ以外のハイブリッド(当時は実質的にインサイトだけだ)」では、「モーターちゃんはアシスト役」として子どもが座っている。つまりプリウスのモーターは大人、インサイトは子どもというわけで、対抗意識を露骨に見せていた。
装備にも差があり、インサイトGではサイド&カーテンエアバッグ、横滑り防止装置、スマートキーなどがオプション設定だが、プリウスは全車に標準装着されていた。
販売店舗数も異なる。初代プリウスはトヨタ店のみが販売したが、2代目でトヨペット店も加わり、3代目はトヨタカローラ店、ネッツトヨタ店も含めて全店扱いに。当時のトヨタは4系列を合計すると5000店舗を上まわり(現在は約4600店舗)、膨大な販売網を誇った。インサイトを扱うホンダは、今も当時も2200店舗弱だから、プリウスは購入のしやすさでも勝っていたのだ。
そのために3代目プリウスは、発売の翌年となる2010年には、1カ月平均で2万6300台を登録した。2020年に国内で最多販売車種となったN-BOXが1万6332台だから、超絶的な売れ行きで国内販売の1位になっている。2010年のインサイトは前述の3200台だから、プリウスの12%に留まった。このあともプリウスは好調に売れて、2012年まで国内販売の総合1位を守った(2013年の1位はアクア)。
インサイトが下がったふたつ目の理由は、2010年に、2代目フィットがハイブリッドを追加したことだ。フィットはコンパクトカーの人気車種で好調に売れていた。空間効率が優れ、後席と荷室はインサイトよりも広い。このフィットにインサイトと同じハイブリッドが搭載され、価格は装備を充実させたスマートセレクションでも172万円だから、インサイトGに比べて安い。
フィットにハイブリッドが搭載されたとき、開発者に「フィットに買い得なハイブリッドを設定したら、インサイトは顧客を奪われて売れ行きを激減させる。なぜこんな無茶をするのか」と尋ねると、「ホンダはすべての車種にハイブリッドを搭載することを考えてIMAを開発した。インサイトの売れ行きは下がるかもしれないが、フィットへの搭載は避けられない」と返答された。
インサイトが衰退した3つ目の理由は、N-BOXとそれに続くN-WGNの好調な売れ行きだ。初代N-BOXは2011年末に登場して、2012年には1カ月平均で1万7596台を届け出した。フィットハイブリッドに加えてN-BOXも売れ行きを伸ばし、N-WGNまで登場すると、2013年には国内で新車販売されるホンダ車の53%が軽自動車になった。
それまでのホンダのブランドイメージは、ハイブリッドを含めた先進技術や高性能だったが、2013年以降は「小さくて実用的なクルマ」に変わった。この象徴が2代目インサイトの低迷であった。2020年もホンダの軽自動車比率は53%で、3代目インサイトの登録台数は1カ月平均で285台と少ない。当時と同じ状況が、今も続いている。