排出したCO2をすべてクルマに貯蔵するのは非現実的だ
はたして、排ガス処理におけるCO2の吸蔵は可能なのだろうか。
まず、技術的なことは置いておいて、エンジン車がどれだけのCO2を出しているのかを確認してみよう。
たとえば、いま国産車でもっとも売れているトヨタ・ヤリスのハイブリッドカーであればWLTCモードのCO2排出量は64g/kmとなっている。また、欧州で各企業に求められる一台あたりの平均値は95g/kmとなっている。
いずれにも、CO2のまま貯めていくということは、これだけの物質を排気系のどこかに溜めておかなければならないということだ。64g/kmというのは、排出量のすべてを貯蔵したとして、100km走行で6400gものCO2が溜まってしまう意味だ。
ヤリスハイブリッドの燃料タンク容量は36リットルだから満タンでの航続距離は1000kmを超える可能性がある。もし、1000kmを走ったとすれば64g/kmで計算すると64kgになる。CO2を気体で貯蔵するとして64kgというのは約3.2万リットルになる。それだけのスペースをクルマに搭載するというのは、あまりにも非現実的だ。
技術としてはCCS(二酸化炭素回収貯留技術)といって排ガスから二酸化炭素を取り出し、地中深くなどに貯蔵するテクノロジーは開発されているが、あくまでも火力発電所のようなプラントにおいて実装されるイメージであって、乗用車の一台一台に搭載するようなコンパクトなユニットにはなっていないし、そうした前提では考えられていない。
クルマの一台一台にCCSを付けるくらいであれば、火力発電にCCS装置をプラスして実質的なCO2排出量をゼロにした電力で電気自動車を走らせるほうが、よほど現実的だ。
なお、CCSによって回収したCO2を人工光合成などによって合成ガス(メタノールなど)にリサイクルして資源化する技術という方向での開発も進んでいる。こうしたテクノロジーをCCUSと呼んだりするが、もしそうして回収したCO2によって人工燃料が作られるようになればカーボンニュートラルでエンジン車に乗ることができるかもしれない。ただし、現在のガソリン並みの価格で供給できるかといえば、そう簡単にはいかないだろう。
というわけで、現時点で考えられている技術レベルでいえば、クルマを走らせながらテールパイプから排出されるCO2を吸蔵するというのは現実的ではないのだ。