課題解決に向けて自動運転や先進運転支援を活用していく
6万社といわれる物流企業の課題はドライバー不足でもあるが、日野の下 義生社長は「使い勝手の良い電動車の普及×輸送効率の向上→輸送の仕事に魅力を感じ担い手の確保につながる」と3社協業によって課題解決につながると自信を示したのも印象的だ。
さらに、協業を推進するための新会社Commercial Japan Partnership Technologies株式会社をトヨタの東京本社内に置くという発表もあった。
豊田社長は「なにが正解かわからない、まずやってみること。その繰り返しでトヨタはここまで生き残ってきた」、「具体的なソリューションはないが、なにかできるのではないかと思っているので応援いただきたい」と正直な気持ちを話したが、実際3社協業での具体的なソリューションについては、なにも決まっていないのだという。
今回の記者会見では、小型トラックのEV化、FCV化というトヨタの知見を活かした技術的な展開や、3社のコネクティッド領域を統合することで安心安全に物が届くようビッグデータを活用するといったアイデアが出されるにとどまった。そして、今回の協業ではオープンイノベーションを意識している。トヨタ、日野、いすゞという3社以外にも運送業界のビッグプレーヤーなどからもアイデアが集まることで、画期的なソリューションを生み出したいという。
なお、いすゞ片山社長によるとカーボンニュートラルにつながる電動化技術については、ここから5年以内にどの技術を採用するかを見極める必要があるという。2035年に向けたロードマップを描くにはギリギリのタイミングでの協業スタートといえる。
さて、ここで気になるのはトヨタにとってのメリットだ。
たしかに「日本をよくしたい」という思いを実現するためには商用領域でのCASE技術の活用というのは有効であるし、そこにトヨタが貢献できるのも間違いない。しかし、新会社Commercial Japan Partnership Technologiesの出資比率がトヨタ:8 いすゞ:1 日野:1 となっていることからもわかるように、3社提携の中心にはトヨタがいる。
単純に乗用車で得たノウハウを商用メーカーに提供するというだけでは、トヨタにとってのメリットはわかりづらい(グループ企業の日野の業績アップがメリットなのは当然として)。もっといえばトヨタのユーザー目線でいえば、今回の提携はまったく関係ない話にも見える。
しかし、そうとはいえない。前述したように商用車というのは走行距離ベースでいえば大きなシェアを持ち、コネクティッド領域での統合はデータの蓄積と分析という点からいえば大きなメリットになる。
また、都市部での配送に使われる小型トラックがFCV化することで、水素インフラがビジネス的に成立するようになり、水素社会が持続可能なものとなる可能性も高まる。大量生産によりFCVのコアテクノロジーの廉価化も期待できる。つまり、3社協業の結果として、短時間の充填で長距離を走ることができるFCVが乗用車においても、より身近な存在として使い勝手のいいクルマになることも考えられるのだ。
今回の記者会見ではCASE技術のAが示す自動運転領域については、具体的な話はほとんど出なかったが、ドライバー不足をカバーするために自動運転や先進運転支援をフル活用することになるのは間違いなく、そうして交通事故を減らすことができれば、ドライバーだけでなく、すべてのユーザー目線において大きなメリットと映ることだろう。