トヨタが接着剤となって日野といすゞをつないだ形だ
2021年3月24日、いすゞ、日野、トヨタの3社が商用事業において新たな協業に取り組みことに合意、3社の社長が共同記者会見を行なった。
記者会見の口火を切ったのはトヨタ自動車の豊田章男社長。「日野はトヨタ傘下だが、商用車専業メーカーということでダイハツのようなシナジー効果は得られていなかった」と正直な思いを話しつつ、「CASE革命といわれる時代においては商用車であっても『ユーザー目線』で考えるとシナジー効果が期待できる」と3社協業のメリットを説明した。このユーザー目線という言葉は、今回の協業を理解する最重要キーワードだ。
とはいえ、いすゞとトヨタといえば2006年に資本提携をしていながら、2018年にはその関係を解消している。傍目には“いい関係”には見えない部分もあるが、いすゞの片山正則社長は自動車工業会(自工会)において副会長を務めている。自工会・豊田会長とさまざまな問題意識を共有してきた。それが、今回の協業を進める背景になったという。
その片山社長は「トヨタの日本をよくしたいという思いに、乗用車メーカー、商用車メーカーの違いはない」と、今回の協業がオールジャパン的な強い思いでイノベーションを起こすことにあると決意を表明した。
自工会といえば、年始には自動車に関わるワーカーへのエールとして『クルマを走らせる550万人』という動画を公開しているが、そのうち270万人は物流関係の労働者だという。そして国内での商用車シェアにおいて日野といすゞを合計すると8割に達するのだ。つまりユーザー目線でいうと、日野といすゞがコネクティッド領域でプラットフォームを統合することはメリットしかない。つまり270万人が働く輸送・物流の現場における困りごとを解決できるのではないか、という思いが今回の3社協業につながった。
そういうこともあって、トヨタといすゞはふたたび428億円規模の資本提携をすることに合意した。
さて、商用車シェアで8割を占めるという日野といすゞは強烈なライバル関係にある。ユーザー目線でいえば協業することは求められていると理解していても、そう簡単には話は進まなかったという。そこでトヨタが接着剤となることで、今回の3社協業は実現した。
もちろん、トヨタの持つコネクティッドや電動化技術といったCASE領域でのノウハウがあってこそ接着剤として機能するわけだが、その背景としては2050年にカーボンニュートラルを実現するという日本政府の目標も大きく影響していることは間違いない。
走行距離ベースでいうと、国内で走っているクルマの4割は商用車なのだという。当然、CO2排出量も多い。商用車がEVやFCVといった電動化技術によりゼロエミッション化することはカーボンニュートラルの実現には欠かせないファクターといえる。
また、内燃機関を使うにしても日野といすゞのコネクティッドプラットフォームを統合することにより輸送効率を向上させることができれば、無駄なCO2を排出せずに済む。