働き方改革で繁忙期でも1週間の有給消化を支持されるように
このようなスタイルは平成の後半まで基本的に続いた。事態が動き出したのは平成末期から令和初期にかけてとなっている。世の中で若者のことを“さとり世代”と呼ぶようになると、何を悟ったのかはわからないが、そのようなディーラーの働き方に疑問を持つ新人セールスマンが増えてきた。
しかし、本人よりもその親御さんたちが過敏に反応した。「ウチの子どもは毎日帰宅が遅いので何とかしてほしい」と、労働基準監督署に直電(直接電話)する親御さんが出始めたのである。販売現場では“モンスターペアレントが通報した”として、その行動に対して驚きは隠せなかったようである。当然通報を受けた労働基準監督署は当該ディーラーの査察を行い、指導が入り就労環境がガラリと変わったそうだ。
「まず残業がほぼなくなりました。もちろん夜間訪問も禁止。毎日遅くても19時には店舗は完全閉店となり、自宅へ帰っても時間を持て余しています」とは、ベテランセールスマン。当時は働き方改革が叫ばれていたので、労働基準監督署の査察が入らずとも、ほとんどのディーラーが就労環境の見直しを行い、労働環境の改善が急速に進んだとのこと。
その動きはコロナ禍となったいまでも、ある意味エスカレートといったレベルにまで改革が進んでいる。前出のベテランセールスマンは、「有給休暇の取得も完全消化に近いレベルまで要求されるようになりました。そのため、事業年度末近くになると、しょっちゅう1週間ほどの休暇を取らされます。さらに、有給休暇のほかに会社から“個人休暇”というのが与えられており、こちらも完全消化が要求されており、昔とは大違いでとにかく休みが増えました」と話す。
年度末決算セールの追い込み月である3月も1週間の休暇が与えられて、当のセールスマン本人は困惑しているとのこと。土曜、日曜といった週末には子どもの運動会など学校行事があっても過去には休みがとりにくかったのだが、いまや平気で取得できるようになっているとのこと。
キチンとノルマをこなして新車を販売していれば、いまや新車ディーラーでのセールスマンという仕事は完全にブラックではなくなった。しかし、ノルマ(いまでは目標販売台数などと呼ばれている)をこなして新車販売を続けるというものは、販売環境が激変しようが、セールスマンにとってプレッシャーとして重くのしかかっているのだけは不変である。