新車開発の大事な拠点を大改革する決断を下した
そのために行った最大の仕事と言えるのが、2020年4月に実施された本田技術研究所の再編だった。簡単にいえば本田技術研究所は新たなモビリティやロボティクス、エネルギーなど新価値商品・技術の研究開発に集中する組織として、従来の市販車開発部門はデザイン部門を除いて本田技研工業の四輪事業本部に統合、「ものづくりセンター」として再構築した。同時に、ホンダの生産技術を担ってきたホンダエンジニアリングも本田技研工業に吸収合併している。
こうして本田技研工業・四輪事業本部に新車開発に関わる多くのセクションをまとめた。その成果が出るのは早くても数年後、成否について判断するのは時期尚早ではあるが、ホンダのものづくりについて大きな変革を成し遂げたのは間違いない。
なお、二輪については2019年の段階で研究所が、本田技研工業・二輪事業本部ものづくりセンターとしてひと足早く統合されている。その成果というには気の早い話だが、ホンダの二輪部門は10%を超える高い利益率を誇っている。同様に、四輪の利益率が改善すればホンダの将来は明るいと言える。そうした新体制への種まきをしたのが八郷氏ということになる。
冒頭で記した三部氏と行った記者会見でも、八郷氏は「三部さんに成果を刈り取ってほしい」という旨の発言をしていた。それだけ種まきに自信ありということだろう。
また、八郷体制での大きな決断といえるのが、2050年カーボンニュートラルという大きな目標を掲げたことと、そのリソースを確保するためのF1参戦終了だ。本田技術研究所の再編と合わせて、こうした判断には反発もあるだろうが、このような大きな決断ができることが真のリーダーシップというものだ。
最後に、ジェンダーやダイバーシティという視点でいえば、ホンダ初の生え抜きの女性役員として鈴木麻子氏を執行役員へ抜擢した人事も忘れられない。ちなみに、鈴木氏は、2021年6月の人事において取締役(社外取締役を除くと6名しかいない取締役のうちのひとり)へとステップアップすることが決まっている。