皆が同じラインを走行すると追い越しが不可能
モータースポーツの世界ではドライビングテクニックの基本として、コーナーは「アウト・イン・アウト」の走行ラインで走るというのが定説だ。通常、一般道では車線を逸脱しないように、車線内の一定の位置をトレースするのが好ましい。しかし、速さを競うモータースポーツでは、少しでも速く走るためにさまざまなアプローチを考えることが重要といえる。にもかかわらず、コーナーでの走行ラインは「アウト・イン・アウト」と長く言われ続けていた。今でも多くの場合それは間違いではないが、「アウト・イン・アウト」一辺倒で皆が同じラインを走行していたら、そもそも追い越しが不可能になる。
僕がそれを疑問に感じたのは40年ほど前の筑波サーキット第1ヘアピンコーナーでレースを観戦していたときだった。僕自身はエントリーカテゴリーのFL-Bクラス(スズキの軽自動車フロンテに搭載されていた3気筒2サイクルエンジンをノーマルのままフォーミュラカーに搭載し競うクラス)に参戦していた。自身の走りの参考にしようと、当時全日本戦の1戦として併催されていた「フォーミュラ・パシフィック」によるレースを観戦していたのだ。出走しているドライバーは星野一義選手や長谷見昌弘選手、中嶋悟選手など超一流の選手ばかり。マシンもマーチやシェブロン、ラルトなど本場欧州の本格的なマシンばかりだ。
筑波サーキット第一ヘアピンのアウト側、丁度クリッピングポイントの外側の位置に陣取ってプロフェッショナル達のレースを見ていた。そこは丁度第一コーナーを立ち上がり、小さなS字を通過し第一ヘアピンへと流れ込む絶好の観戦ポイントといえた。
レースが始まると各車ほぼ一列に並びヘアピンにアプローチ。そしてヘアピンコーナーを定説の「アウト・イン・アウト」でクリアすべく各車一列のままコーナー入り口でアウト側へ動く。その光景を見ていて「インがガラ空きなのに、誰もインを刺してこないんだな」と不思議に思ったのだ。
ヘアピンコーナーのようなR(旋回半径)の小さなコーナーでは、Rを大きく取るために「アウト・イン・アウト」の走行ラインを通って車速を落とさないようにすることが重要と考えられていたのだ。インを刺すと、旋回半径が小さくなり、速度を落とさないと曲がりきれない。さらに車速が落ちるとコーナー出口での立ち上がり加速で初速が低くなり、次のコーナーまでの加速が鈍り速度が乗らない。当時は立ち上がり加速を重視する走法が必然だったのだ。その結果、皆が同じライン取りとなり、追い越しシーンが見られなかった。
だが、僕が観戦していた「位置」からはある事実が見えていた。