特性を知り尽くしてマシンを作り上げた!
シリーズが始まってみると、このハンデは想像以上に大きく、経験豊かなワークスのシュニッツアーチームでさえ苦戦する。だがJTCC初年度はFFのトヨタ・コロナを駆る関谷正徳選手がドライバータイトルを獲得。だがチームタイトルはシュニッツアーBMW318に輝く。そして翌1995年シーズンになるとドライバータイトルもシュニッツアーBMW318を駆るスティーブ・ソーパー選手が獲得している。
僕が優勝したのは1996年の仙台ハイランド戦。曲がりくねったコースレイアウトでストレートの短いハイランドのコースはハンドリングで有利なFRのBMW318に向いていた。予選3位からスタートで一気にトップを奪い、そのまま25周のレースをトップを維持したままフィニッシュしたのだ。
スタートでは後輪に荷重がかかるFRが有利だった。FF車が前輪を空転させている間に一気にトップに立てた。またタイヤへの負担が少ないFRがFF勢よりワンランク柔らかいコンパウンドのソフトタイヤをレースで装着でき、FF勢がウォームアップに手間取っているオープニングラップだけで大量のリードを築くことができていた。
それでも数周するとFF勢のタイヤも暖まり、猛烈な追撃を受け始める。コーナー立ち上がりの加速区間や登り勾配のきつい場所では100kgのウェイトハンデがきつく作用する。そして短い直線でも確実に差を縮められた。エンジンチューナーの話によるとFRはエンジンが縦置きのため、エンジンも回転方向を90度転換して車軸に伝える。そこで10%前後の機械損失が発生し、パワー面で不利なのだという。FF車はエンジン横置きでエンジンの回転をその向きのまま車軸に伝えられるのでロスが少ないのだ。
しかもトヨタ、日産、ホンダがワークスの面子をかけてエンジンチューニングを行っている。シュニッツアー仕様とはいえ、吊るしのままのエンジンを使用している我々には不利な状況だった。
だが迫り来るFF勢はハードタイヤを装着しながらも次々と前輪を痛め脱落。曲がる、止まる、加速する、を前後輪でバランスよく使えるFRはタイヤに優しく、ソフトコンパウンドながら最後まで安定して走ることができたのだった。
こうしたFF対FRの闘いの最前線から得た知見として、軍配はFRに上げる。100kgのウェイトハンデが無ければFF勢はもっと苦戦しただろう。ただ、FRならなんでもいいというわけではない。FRの特性を知り尽くしたシュニッツアーがマシンを精密に造りあげたからこそFRの美点を100%引き出せた結果なのだ。