ツーリングカーレースにおいても熾烈な戦いが起こっていた
FF(フロントエンジン・前輪駆動)とFR(フロントエンジン・後輪駆動)はどちらが速いのか。カーマニアの間では永遠の話題とも言えそうなテーマだが、かつてその雌雄を決した闘いがあった。
1995年、それまで国内のツーリングカーレースはグループA規格による選手権がトップカテゴリーとして開催されていた。僕自身も1985年から1988年まで三菱自動車のラリーアートと契約して「スタリオン・ターボ」で参戦していた。
市販車ベースで改造とクラスがカテゴライズされていたグループAレースは世界中で人気を博し、世界を転戦する世界選手権まで組まれたほどだ。だが、世界中の自動車メーカーが本気で参戦すると一気にコストが高まり、市販モデルにもグループAベースモデルなる仕様が設定されるなどしてエスカレート。やがて参加者の負担が増えすぎてレギュレーションの見直しが図られることになる。
そうした背景から生まれたのが1993年に定められた「ニューツーリング(FIAツーリングカークラスII)規定」だ。
1993年に、それまでイギリス国内のローカルレースとして開催され人気が高かった2リッター自然吸気エンジンの4ドアセダンによるレースカテゴリー(BTCC)をFIAが国際規格として導入。1995年より国内でもグループA選手権に代わり「全日本ツーリングカー選手権(JTCC)」として開催されるようになったのだ。
この新規定に則り、すでにBTCCで活躍しているマシンの導入を即戦力としてプライベーター各チームが検討した。当時BTCCを席巻していたのはFRのBMW318。対して日産プリメーラ、ボクスホール(オペル)、フォードモンデオ、トヨタ・カローラなどがFFモデルとして善戦していた。まさにFR対FFという構図で激しい闘いが展開されていたのだった。
結果を見ると、FRのBMWが連勝し、シリーズを席巻。JTCCに参戦を目論むプライベーターチームの多くはBTCCチャンピオンチームである独・シュニッツアーチームの手がけるBMW318獲得に奔走することとなる。僕は1995年からスーパーツーリングと改称された同カテゴリーのシリーズ戦に参戦。当初はイタリアチーム製のBMW318を使用し最高位は5位。チームを移籍した1997年にはシュニッツアーチームの手がけた新車のBMW318に搭乗し1勝をマークした。
このとき、国内の自動車メーカー各社はトヨタがコロナ・エクシブ、日産・プリメーラ、ホンダ・シビック〜アコードとFFをベースに開発を押し進め参戦していた。
じつはBTCCでのBMW318の速さからFIAは国際規格とする際にFFは最低重量950kgとしたのに対しFRには1050kgという100kgものウェイトハンデを課していた(全輪駆動AWD車も同様)。そうすることでFFしかラインアップに持たないメーカーの参戦を促すことができたわけだ。