標準仕様がタイプRに限りなく近い存在となっている
次に、これ以上の軽量化が難しいという問題がある。NSXは現時点でボディ骨格やサスペンション、シート骨格にアルミニウム合金や超高張力鋼板、外板にはさらにCFRP(炭素繊維強化樹脂)やガラス繊維強化ポリエステル製のSMC(シートモールティングコンパウンド)も用いている。さらにブレーキはオプションでカーボンセラミック製ローターを設定するなど、打てる手はほぼ打ち尽くしているというのが率直な印象だ。
レーシングカーなみに吸遮音材やトリム類を除去し、シートもCFRP製・手動のフルバケットにすれば、さらなる軽量化は可能だろうが、そこで削れる重量は決して多くないだろう。
一方、現行NSX最大の特徴とも言える「スポーツハイブリッドSH-AWD」のモーターや駆動用バッテリー、インバーターなどを丸ごと除去し、トランスミッションも9速DCTをやめて3ペダルの7速MTにすれば、もしかしたら100kg単位の軽量化が可能かもしれない。
だがNSXのモーターはフロント用が37馬力&73Nm×2、リヤ用が48馬力&148Nm×1と、3.5リッターV6ターボエンジンの507馬力&550Nmという性能と比較すれば控えめで、モーターやバッテリーの重量も相応に軽いものと思われる。そのため軽量化の効果は少なく、だがSH-AWDのトラクションとトルクベクタリングを失うことによる加速・旋回性能のダウンは大きく、運動性能をかえって落としかねないのだ。
そして一番は、タイプRを設定すると標準仕様の価値が減るうえ、実用性の低下と価格の上昇、マニアックなクルマというブランドイメージの定着によって、ユーザーをさらに限定するため、NSX全体の拡販につながらないどころかブレーキをかける危険性があるということ。これは初代NSXに始まりタイプRを設定した各車、もっと言えば他社を含むエボリューションモデルを設定したどの車種もハマっている落とし穴だ。
率直に言って現行NSXは、初代とは比較にならないほどポテンシャルアップした代わりに、初代が備えていた、近所の買い物にも辛うじて使える程度のユーティリティと運転のしやすさはほぼ失っている。言い換えれば、標準仕様の時点でタイプRに限りなく近い存在になった。
このように、現行NSXにタイプRが追加されない理由は数多く挙げられるのだが、とはいえ「でもやっぱりチャンピオンシップホワイトのNSXが見たい!」「台数限定でもいいから赤バッジをつけてくれ!」と願わずにいられないのが、ホンダファンの性だろう。筆者もそうだ。
初代NSX-RはNA1型も、2002年に発売されたNA2型も、絶対的なスペックは控えめだったが、ストイックなまでに運動性能を追求し、レーシングカーに限りなく近い存在に仕立てられていたからこそ、無類の操る歓びを備えていた。
筆者としては、スポーツハイブリッドSH-AWDを完全に手放し、トランスミッションも3ペダルの7速MTとして、CFRP製・手動のフルバケットシートを装着。吸遮音材やトリム類も法規が許す限り徹底的に除去した、タイプR史上最もピュアなNSX-Rを心から待ち望んでいるが……それは見果てぬ夢だろうか?