GRヤリスで驚いた駆動力配分技術はMAZDA3が先行していた!
だが、ちょっと待てよと。MAZDA3のAWDは従来から電子制御カップリングを介して行う一般的なシステムで、前輪スリップに応じて後輪へ駆動配分する比較的単純なシステムだったはず。理論上はアクティブに前50:後50以上とはならないはずではなかったのか。
他社の多くが同様のシステムを採用する場合は直線路走行中にカップリングをフリーにしてFF(前輪駆動)状態で走行させ、走行抵抗を少なくして燃費低減を狙っているのに対し、マツダのi-ACTIV AWDでは微小にカップリングを締結していてリヤにも駆動力を与え、直進安定性の向上とカップリングをスタンバイ状態に維持して作動応答性を高めている、というのは聞いたことがあるが。「4駆使い」を自認する僕としては「後輪駆動寄りのトルク配分を可能にした」というのは主題のパワートレイン改良よりビッグニュースになるのだ。
そこで駆動系担当エンジニア氏にオンラインでインタビューすると、「直線ではFF状態で、前輪が滑ったときにカップリングで後輪へ配分しています」と。それでは従来制御より後退(?)したことになってしまう。ほかのエンジニア氏にも確認したが、意味が理解できておらず。後日i-ACTIV AWD専任エンジニアである梅津大輔氏とオンラインで特別に説明を受ける機会をいただいた。そこで梅津氏から衝撃の言葉が。
「中谷さん、GRヤリスに試乗されてAWDシステムについて解説されてましたよね。前後駆動系の減速比に0.7%の回転差を設定して後輪へのトルク配分を可能にしていると。じつはあれ、ウチ(マツダ)のほうが先に取り組んでいてMAZDA3はデビュー時から採用しているんです。しかもウチ(マツダ)は回転差を1%とより大きく取っています」と。
なんということでしょう。これには驚きました。MAZDA3のAWDは低ミュー路で限界走行させてもライントレース性の高いハンドリングで、バランスのいい走りだと感じていた。それはスナッピーなGRヤリスのハンドリング特性とは大きく異なっているが、駆動システムの理論的アプローチは同じなのだった。MAZDA3登場時にはそんな説明はまったく聞かされなかったが、おそらく「誰にも理解できない」と判断されたのか、極秘の取り組みとして触れられなかったのか。否、同じMAZDA3の開発エンジニア陣にも共有されていない奥深い内容だったようだ。